怒涛のデート編ですって・・・あれぇ?・・・おかしいな。もっとこう、美鶴さんがなんていうか新妻攻略に(オイ)あくせくする話にしたかったのに。なんか・・ち、違うような・・・た、只の恥ずかしい話になってしまった?!(汗汗)え~と文中の「牙のない狼」というのは本とに小学校で私が見た劇です。(だんだん立場をばらしてるぞ。お前)一度観ただけの物なので記憶違い、間違い等はご勘弁ください。
You are too pretty, and I am hard
君が可愛すぎるから僕はとても大変なんです。
「美鶴。どしたの?寝不足?」
トーストにかじりつきながら亘は聞いた。
用意した朝食にほとんど手をつけず、ため息交じりに美鶴はコーヒーだけを口に運ぶ。
「・・・ちょっとな・・・」
「どしたの?寝れなかったの?あ!そんなに楽しみだったの動物園?」
そんな訳あるかい!
あの後自分の隣でスヤスヤ寝息をたてる亘を見ながら美鶴は一晩中己の自制心と格闘していたのだ。
意識しなければそれほどでもなかった筈なのに、亘からのおでこにチューが思い切り利いてしまった。
しかも努力の末少し落ち着いたかな、と思えば寝てる亘の方から可愛いため息とともに「・・・美鶴」なんてまるで新婚新妻定番(だからその考え方はどうなんですか)の名前呼び寝言が聞こえてくるときたもんだ。
いっそこのまま既成事実を作ってしまおうかと何度思ったか知れないともさ!
・・・などという美鶴の夜中じゅうの葛藤など露知らない亘は嬉しそうにニコニコ笑いながら
「じゃ!早く準備して行こう!今から電車乗っていけばちょうどいい時間になるよ」
とバタバタと支度をはじめた。カップに残ったコーヒーを飲み干しながら美鶴は再びため息をついた。
「お待たせっ!」
服を着替えて亘は勢い良く玄関に現れる。一足先に着替えて準備を済ませて待っていた美鶴はゆっくり亘を振り返った。そして思わず叫びそうになり口元を押さえてしまった。
「か・・・」
「か?」
大きめのフードがついた真っ白なパーカーに7分のボトムを穿いて。それだけでも童顔の亘は通常より子供っぽく見えて危ないくらい可愛いというのに、とどめは頭に乗っかっているこれまた真っ白なおおぶりのキャスケットの帽子。
しかもそれがどう見てもメンズ物ではなくレディース物のカッティング。すっぽり亘の頭を包んでるそれはある意味似合いすぎてもう犯罪。
ああ、そういや亘って幻界でも帽子姿がえらく可愛かったよな・・と美鶴が思わず遠い目をしたほど。(大丈夫か美鶴?)
「・・・どしたの?・・・なんか変?このカッコ・・・」
美鶴の不可思議な反応に亘はなんだか不安になって聞いた。いいや!変どころか!!
「いや・・・そんなの持ってたかな、と思って・・・」
「あ?これ?美鶴の叔母さんが前くれたんだよ。・・・なんかどっかのオリジナル商品らしいんだけど僕に似合いそうだからってわざわざ。美鶴と出かけるときにでもつけてって。・・だから今日初めてかぶったんだよ」
嬉しそうに帽子に手をやりながら亘は言った。美鶴は思わずこぶしを握り締める。さすがは我が叔母!グッジョブ!ナイスセンス!!
しかしそれはそれとして・・・
「じゃ、行こう!」
嬉しそうに外に出ようとする亘を美鶴は背後から羽交い絞めに抱きしめた。
「わっ?!み、美鶴?な、なにすんのさ」」「亘。出かける前に約束して」
「え?」「・・・・何があっても俺の側を離れない事。絶対に。わかった?」
「う、うん。・・わかった」ジタバタしていた亘は美鶴のあまりに真剣な声に思わず深々と肯いた。
可愛すぎる新妻を持った若旦那は苦労する物なのだ。寝不足などとは言っていられない美鶴であった。
「うわ!変わってない。わー懐かしい・・・美鶴早く!こっちこっち!」
動物園についたとたん案の定亘は駆け出した。
予測していた事とはいえ、美鶴はため息をつき素早く亘の前に回り込むとはやる亘を押し止める。
「亘。慌てるな。落ち着け。時間はあるから」小さな子供に諭すように美鶴は言った。
「う、うん。ごめん・・・つい」恥ずかしそうに帽子を目深く引っ張って亘はほんのり顔を赤らめる。
その仕草に美鶴は寝不足の頭をクラッとさせながらもそっと亘の手を取った。
「え・・・」
そしてぎゅっと握りながら優しく言った。
「こうしてつないでれば大丈夫だろ」「え?で、でも・・」
亘は真っ赤になって思わず辺りをキョロキョロ見回す。
「ヘ、変だよ!みんな見るよ」「見たいやつには見せとけばいい」
美鶴はキッパリ言うと亘の手を引き歩き始めた。そのあまりの自然ぶりに最初恥ずかしがっていた亘もだんだんまぁいいや、という気になってしまった。せっかく二人で来たんだから。今日は一日楽しい事だけ考えたい。
「最初は何を見たいんだ」「えっと・・ね・・ライオン!」
あまりに予想通りの答えに美鶴は苦笑する。多分その次はキリン。その次はきっとゾウ。そして・・・
「それからキリン!それからゾウ!そして・・・」「・・・ペンギン、だろ?」
「え?なんでわかるの?」キョトンと驚いた顔をする亘に美鶴はこれ以上ないくらいの微笑を向ける。
わかるよ。わかるよ。だって大好きな君のことだから。
わかるよ。わかるよ。だっていま手をつないで一緒にドキドキしてるんだから。
「あれぇ・・・おかしいなぁ・・」
希望の動物を一通り見てちょうどお昼になったので二人でベンチに腰掛け買ってきたサンドイッチを食べていた。
ジュースを口に含み、動物園のパンフレットを見ながら亘は首を傾ける。
「どうしたんだ?」「ん~とね・・・前来た時はいたと思ったんだけど・・・いないんだ」
「なにが?」「うん・・あのさ。狼・・・」「狼?」
なんとなく意外な名前が出たなと美鶴は思いながら聞いた。
「亘。狼なんか好きだったのか?」「好きっていうか・・・美鶴は知らない?牙のない狼ってお話・・」
「牙のない狼?」
「うんとちっちゃい頃見た劇の話だからもう、よくは覚えてないんだけど・・・」
ある森に優しい優しい狼がいた。羊やウサギたちと友達になりたくて近づくけれどみんな怖がって友達になってくれない。
ある日一匹の羊が言う。その恐ろしい牙をなくせば僕達を食べる事は出来ないはずだからその牙を折ってみろ、と。
そして狼は言われた通りに牙を折る。自分が傷ついても友達が欲しかったから。本当に牙を折ってしまうのだ。
けれど今度はまわりから牙のない狼なんておかしいと言われ、結局誰も近づかない・・・誰も狼と友達にはならないのだ・・・
記憶をたどり一生懸命にそのあらすじを話す亘の声を美鶴はじっと聞いていた。
「そしたらそのうちその森に戦争で失明した一人の兵士が現れるんだ」
目の見えないその兵士は牙のない狼を羊と勘違いし、友達になる。それまでお互い一人ぼっち・・・一人ぼっちだった二人ははじめて優しいぬくもりを知る・・・けれど、狼はいつも苦しかった。自分が狼だという事を黙っていたから。
狼だとわかればきっと嫌われると思ったから。
けれどある日の寒い夜。凍えそうな寒い夜。兵士を暖めながら狼は問い掛けた。もし、もし・・・僕が狼でも君は僕を好きでいてくれるかな・・・・
兵士は答えた。・・・・うん・・・僕はきっと君が狼でも・・・君のような狼なら
・・・僕はきっと大好きだよと・・・
「・・・・・・・」
亘が顔を上げる。自分をじっと見ていた美鶴と目が合った。
「それから?」美鶴は優しい声で続きを促した。
「うん・・・え、と・・あはは・・・忘れちゃった・・」ベンチに座り足をぶらぶらさせながら亘は笑った。
そしておもむろに立ち上がる。
「そんな劇見た後ここにきて・・・なんか妙に印象に残っちゃったんだ。そのときの狼。だからなんかどうしても見てみたくて」
パンフレットを片手に美鶴も立ち上がる。「案内のセンターに行って聞いてみよう」
「ああ・・・その狼ねぇ・・・ごめんなさい。死んじゃったんです。去年」
案内の女性は美鶴に声をかけられて真っ赤になりながら丁寧に答えてくれた。番で飼われていた狼はおととし先にメスがなくなったのだが
その後残されたオスは急速に元気がなくなりまるで後を追うように去年亡くなったのだと言う。
狼という動物は荒々しそうで実はとても伴侶を大事にする生き物なのだと教えてくれた。
「寂しくて耐えられなかったのね・・・きっと」
御礼を言って二人はセンターを後にする。少し悲しそうな顔をしている亘に美鶴は声をかけた。
「残念だったな」「うん。でも仕方ないからね」
亘は顔を上げると気持ちを切り替えるかのように明るい声で言った。
「美鶴。今度は遊園地の方行こう!なんか乗ろうよ」
遊園地といっても所詮は動物園の附属なのでたいした物があるわけではなかったが亘が乗りたいという乗り物に美鶴も付き合った。
それこそ動物園以上にこんな体験するのは美鶴は何年ぶりだという感じだったが終始嬉しそうな笑顔を亘がしていたので美鶴も自然顔が綻んだ。
「かわいい彼女さんだね。はい」
「は・・・?」
最後に観覧車に乗ろうと係りのおじさん・・いやすでにおじいさん。に切符を渡したらそういわれ、亘はポカンとした。
次の瞬間。その意味に気づいて慌てて訂正しようとする。
「ち、ちが・・僕は男で・・ムグッ・・・」「そうですか」
亘の口を手で押さえニッコリ微笑む美鶴がいた。
「ああ。幸せそうでいいね。彼氏さん、彼女大事にするんだよ」
「わかりました」確信犯的スマイルを振りまきながら美鶴はジタバタ暴れる亘を引っ張り観覧車に乗り込んだ。
美鶴の手から解放されて大きく息をつくと亘は美鶴をにらんだ。
「美鶴っ!誰が彼女だよっ!」「亘だろう。そんな可愛いかっこしてるから誤解されたんだ」
「な、何言ってるんだよ・・か、可愛いって・・・そんな」亘は真っ赤になった。
「誰がどう見たって可愛いよ。可愛い。可愛すぎる。・・・だから、ほんとは俺はずっと困ってる・・・」
「え?・・・」
気が付けば狭い観覧車の中すぐ横に美鶴がいて自分の方に手を伸ばしていた。
そして可愛いといわれた一番の原因でもある帽子をそっと脱がせた。
「すごい似合ってて可愛いけど・・・ときどき顔が隠れてよく見えないんだ・・それがちょっと寂しい」
息がかかるほど間近に美鶴の顔があった。いや、というかすでに耳元に息がかかってる気がする。
亘はなんとなく冷や汗が出てきた。え、えーと。えーと。この状況って・・・もしかして・・・
美鶴の手が亘の額に伸びてきてゆっくり前髪をかきあげる。
「亘・・・」
どう考えてもそれ以上は近づきすぎだろうというところまで美鶴の瞳が見えたとき、亘は叫んだ。
「あ、そ、そうだ!思い出した・・・狼は死んじゃうんだっ!」
「は?・・・・」
唐突な亘の言葉に美鶴は思い切り怪訝な顔をする。
「え、えーとね。兵士を探しに来た別の兵隊達が狼を見て銃で撃っちゃうんだ。その二人が友達だって知らなかったから」
そこまで聞いて美鶴はやっとさっきの亘が話していた「牙のない狼」の話の続きだとわかった。
「そして兵士はそのときやっと気づくんだよ。自分の側にいてくれたのは羊ではなく狼だったんだって・・・」
一人ぼっちが寂しくて・・自らを傷つけて・・牙を無くしてまで・・誰かの側にいたかったのは・・皆から恐れられている狼だったのだと・・・そして兵士は泣いたのだ。誰よりも優しかった狼のために。
・・・・自分の側にいてくれたたった一人の友達のために。
実を言うと・・・亘はこの話の狼を思うたびに何故か美鶴を思い出す。
周りから恐れられてる狼・・・でも実は寂しがり屋でとてもとても優しい狼・・・
亘が側にいくまではいつもたった一人でいた美鶴。一人が平気な顔をしながらじつはとても寂しがり屋で傷つきやすい優しい魂・・・・まるでまるで牙のない狼のよう・・・話しながら亘はせつなくなっていた。
静かに顔を上げるとまだ間近に美鶴の瞳があった。優しい優しい色をその瞳にたたえて亘を映していた。
「一人じゃないからね・・・」
亘はそういうと美鶴の首に手をまわした。そしてそっとそっと抱きしめる。
「美鶴は一人じゃないからね」
美鶴は苦笑した。亘の雰囲気から亘が話しながら何を考えていたのかが手にとるようにわかった。
馬鹿だな。俺から逃げるつもりでその話したんじゃなかったのか?ほんとにほんとに・・・お前って・・・
「いいのか?俺は狼なんだろ?・・・」
すでに逃げられないように亘をその腕に封じ込めながら美鶴は囁いた。
「え?・・あ!」
ハッとしたように慌てる亘をもう遅いとばかりに美鶴は強く抱きしめた。
そして耳元で小さく小さく囁く。可愛い可愛い可愛いと・・・
足元に亘の帽子がポフンと落ちた。
その後観覧車から降りるとき時なぜかまともに立っていられなくなった亘がいて、それを美鶴が抱きかかえて降りてきたらしいという事はそれを見ていた係りのおじいさんだけが知ってる秘密。
君が可愛すぎるから僕は平静を保てない。
君が可愛すぎるから僕はとてもとても大変なんです・・・
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