最後になりました。リクエスト小説第四弾!リクエストはMirunai様よりもうひとつ頂いてたネタで「中学生美鶴と亘で放課後亘に魔法をかける美鶴」というなんとも美味しいネタでした。・・・最後の最後で美鶴さんちょっとまともになりました。今までを反省して(?)あまあまの二人を目指してみました。
めざせ!ネオロマ!めざせ!ハーレクイン!・・・最後までバカだ。
・・・すすいません。Mirunai様!リクエスト有難うございました。謹んで御捧げいたします。
君に魔法をかけて
幾千の星のどんな輝きよりも眩しい
空にたゆたう雲を凪ぐどんな風よりも優しい
安らかな暖かい幼子のどんな微笑よりも愛しい
だから君に・・・僕は魔法をかけたい
「美鶴ってさ・・・まだ・・魔法使えるの?」
遠慮がちに亘が尋ねた。唐突な質問に美鶴は顔を上げる。ここは郊外の図書館。中学生になった二人は日曜日になるとよく自転車に乗って遠乗りがてらこの図書館に来ていた。そして学校の課題を片付けたり、授業の予習をしたりするのだ。
たいていは美鶴の方がさっさとそれらを終えて気に入った本を読みふけっているというのがパターンだった。
「なんだよ。いきなり」
読んでいた本を閉じると美鶴は聞いた。亘はちょっとまずかったかなぁという顔をする。
亘と美鶴は今そろって14歳になっていた。11歳のころのあの特異な体験・・・幻界を旅してきたという不思議な事実からもう3年以上経っていた。別に二人で示し合わせたわけではないけれど幻界でのことをあえてこちらに戻ってきてから話題にする事はなかったから、美鶴は少し驚いた顔をしている。
「ご、ごめん。ちょっと・・どうなのかなぁって気になっただけなんだ」
チラリと亘の横に置いてある本の題名を見る。ノートの下にして隠してるようで全然隠れてないのでバレバレだ。
「君にも出来る超マジック!」
いわゆる手品の解説書だ。美鶴は今の会話とその本で事のあらましを大体推理できた。
「手品でもやらなきゃならなくなったのか?」「う・・・」亘は言葉を詰まらせる。そしてしぶしぶ訳を話し始めた。
「実はさ・・・」
昨今、世の中はいわゆるマジックブームらしい。TVではつぎつぎと新しいカリスママジシャンとやらが現れてビックリするようなマジックを披露している。クラスの皆もご多分にもれずそれらを観ては次の日にクラスで大いに話題にする。特に女子はそのマジシャンが美形だというだけでたいした事ないマジックも手放しに褒めたりするので、亘はただなんとなく
「でも、マジックなんだから所詮仕掛けがあるんだろ。そんなにきゃあきゃあ言うのなんておかしいよ」と言ってしまった。
するとクラスの女子はいっせいに亘を睨んでこう言った。何よ、三谷君偉そうに!じゃあ自分は出来るって言うの?そうよ、そんな風に言うんだったらやってみせなさいよ!と、こう来てしまった。
しまった!と思っても時すでに遅し。いいわね。来週中にはやってもらうわよ。逃げるんじゃないわよ!クラスの皆で見せてもらいますからね。
「・・・てことになっちゃったんだ・・・」
がっくりとうなだれながら言う亘に美鶴は笑いをかみ殺すのに必死だった。
よくもまぁ・・かわらずおんなじことを繰り返せるもんだ。小学生だったころから余計な事を口に滑らせては(特に女子相手に)損な目にあってきてるのに。美鶴は閉じていた本を開くとそっけなく言った。
「がんばれよ」「美鶴~・・・」すがるような目でこちらを見る。
「だからー!だから!出来る訳ないじゃん。頼むよ。教えてよ。簡単なのでいいから・・・まだ、魔法使えるんでしょ・・?」
美鶴はチラッと亘を見た。そしてすぐ本に視線を落す。「さあな」
その言葉を聞いて亘はがっくりと机に突っ伏してしまった。ああ、もう。ああ、もう。これでクラスの笑いものは決定だ・・・
「明日、放課後学校の屋上に来いよ」
え?亘が顔をあげたときには美鶴はもう、そ知らぬ顔で本を読んでいた。
次の日の放課後。クラスの皆に見つからないように亘はこっそり屋上にやってきた。この屋上は基本的には出られないようにいつも鍵がかかっている。何か特別な理由があるときだけ先生が鍵を貸してくれるのだが、今日は扉が開いていた。
美鶴がもう来てるのかな?
亘はそっと扉を開けると中に入る。ヒュウッ!と外の風を肌に感じた。後ろ手にゆっくり扉を閉めて屋上を見渡した。
美鶴の姿はない。
(まだ来てないのかな・・・)
中学では二人は違うクラスになった。だから登下校のときはお互い学校の門で待ち合わせたり、教室で本を読んで暇つぶしをしたりして自然相手を待つような感じになっている。だから今日も特に待ち合わせをしていたわけではなかった。
亘はフェンスに寄りかかる。そして座って美鶴を待つことにした。美鶴はああいったけど本とに来るのだろうか。
幻界・・・いわゆるヴィジョンでの事は亘にとっては大切な仲間・・・キ・キーマやミーナと出会えた楽しい思い出でもあるのだけれど美鶴にとっては決してそうではないはずだ。いろいろと考えてもむしろ思い出したくない事の方が多い出来事なのではないか、と亘は思っていた。
だから今まであえて話題にもしなかったし、するつもりもなかった。・・・なのに、今回いくら自分が窮地に立たされたからといって安易に幻界での事を思い出す話題をふるなんてやっぱり軽率だったかもしれない。・・・しかも魔法を使って、なんて。
その美鶴の強大な魔力こそが最後、美鶴を一番苦しめた原因だったともいえるのに・・・亘は顔を上げた。やっぱり、やめよう。美鶴が来たらもういいよって断ろう。クラスの笑いものになるくらいたいした事ないや。
そう思って立ち上がったとたん。頭の上から声がした。
「ようこそ」え?
上を見上げる。自分の頭より遥か彼方。真っ白な雲をバックにして美鶴がさかさまに浮いていた。
亘はあんぐりと口をあけてポカンとしてしまった。美鶴はさかさまに浮いたまま亘に手を伸ばす。
そして歌うように軽快に叫んだ。
「ようこそ!勇者様。芦川美鶴のマジックの部屋にどうぞ!」
「み、みつ・・・わぁっ!」
自分の周りで風が舞い上がったかと思うと体が宙に浮いた。その浮いてきた亘の手を美鶴がつかむ。
あ、と思う間もなかった。体が反転して目の前に真っ青な空が見えたと思ったら、次の瞬間。逆さまになった校舎が見えた。
「・・・・・!!」
さっき見た美鶴と同じく自分も空中で逆さまに浮いてるのだとわかった。思わず手足をばたつかせると美鶴が腰を抱き寄せながらいった。
「バカ。暴れるなよ」「だだだって・・・だって!・・ふわふわしてて・・ど、どうすればいいのか・・わっ!わっ!」亘は思わず目を瞑る。
美鶴は苦笑すると亘の手も自分の腰に回してつかまらせた。片手はお互いつないだまま。ゆっくりと亘に囁いた。
「大丈夫だから目を開けてみろよ。これから芦川美鶴一大マジックショーが始まるぞ」亘はおそるおそる目をあけた。
「わ、わかった・・・で、でも美鶴頼むから逆さまはやめて。落ち着かないよ・・・」「わかったよ」
美鶴はまた苦笑するとゆっくり体の方向を変える。周りの物がまともに見えるようになっただけでもだいぶ違う。亘はホッと息をついた。
「見てろ」美鶴は小声で何かを呟いた。亘にはわからないけれど多分呪文なんだろう。頭の上にあった雲をめがけて美鶴が指差す。
そして次の瞬間、雲が弾けて無数の煌めく水滴になる。そして亘たちの周りに宝石のように舞い散った。
美鶴はまたすかさず何かを唱える。するとたくさんの水滴たちが一瞬にして小さな虹を形づくった。亘たちの周りを無数の七色の虹が取り囲む。
「わ・・・」亘は目を見開いて感嘆の声をあげた。
美鶴が指をぱちんと鳴らすと虹は消えていった。「こっちだ」美鶴は次に校舎のはずれにある小さな森を指差す。
また美鶴が何ごとかを唱えるとその森の木々たちが一斉にざわめいてその緑の葉をこちらに飛ばしてきた。
「わぁっ?!」
そしてその緑の葉は集まって大きな大きな鳥の姿を形づくる。翼を羽ばたかせキラキラと緑黄色に輝くその姿はまるで本当の鳥のようだ。
亘の肩を支えながらその緑の鳥の上に美鶴はゆっくり降りてゆく。
「どうぞ。勇者様」「だ、だいじょうぶ・・・?」
「なんだよ。おまえ、ドラゴンの背中には乗ったくせに。あれよりスピードは出ないぞ」
ふわり
二人を乗せた緑の鳥は天空を目指して舞い上がった。
「み、美鶴。今気づいたんだけど・・・これって皆に見つかったらたいへんなんじゃ・・・?」
落ちそうな気がするのか美鶴の手をつかんだまま亘は聞いた。
「下からは見えないよう結界を張ってある」美鶴はさらりと言った。
ハァー。亘は思わず感嘆のため息をついた。すごいすごい。やっぱり美鶴はすごいや。
美鶴のこんなすごい魔法をみたらTVでやってるカリスママジシャンのマジックなんて、てんで子供だましにしか見えない。
高く高く亘たちを乗せた鳥は舞い上がるとやおらその大きな翼を舞い広げた。ものすごい風があたりを包み、亘は驚いて両手で顔を覆った。
「え、なに?み、美鶴どこ・・・」目が開けられない。
パサパサパサッ・・・やっと目を開けると緑の葉の鳥が音を立てて崩れていくのが見えた。それとともに体が急速に落下していくのがわかる。
「わ、わ、わあぁーっ?!」
パ・・フン・・!
落ちた自分の体が何かに受け止められた事がわかった。いや、受け止められたと言うよりは何かの中に落ちたと言った方が正しい。
早鐘を打つ心臓を抑えながら、亘はゆっくり辺りを見回す。真っ白な・・・真っ白な・・これは霧・・・?その中に自分は浮いている。
「この辺で一番大きな積乱雲を探してたんだ」後ろから声がした。振り返ると美鶴がいた。え?・・・じゃあ、じゃあ、僕たち今雲の中にいるの?
美鶴は自分の胸の前で両手をかざして小さな円の型を形づくっていた。そのなかにいくつもの小さな光が飛び跳ねている。
何をするのかと見ていたら美鶴はその両手を大きく広げて、その光をあたりに放った。
光が飛び散って雲の中でまるで小さな雷のようにあちこちで光を放ち始めた。あちらで光ればそれが反射してまたこちらで光る。
無数の光が反射しあってまるで光のシャンデリアだ・・・・亘はもう息を飲むどころではなかった。
「す・・・ごい・・・すごいすごい!美鶴すごいよ!」頬を上気させて興奮しながら叫んだ。こんなの・・こんなの見たことない!
すごいすごいすごい・・・!
「そうでもない。要するに原理は雲の中でちいさな雷をたくさん起してるだけなんだ。マジックの仕掛けと同じだよ」
「全然違うよ!美鶴のはマジックなんかじゃなくて魔法だし・・それにずっとずっと・・ワクワクしてドキドキして・・・」
そう、嬉しい。嬉しくて楽しくて・・・心底嬉しそうな亘の笑顔を見ながら美鶴は微笑みながらもポツリと呟いた。
「俺は幻界で・・・こんな風に誰かを喜ばせる為に・・・魔力を使った事は一度もなかったからな・・・」
あ・・・その言葉を聞いてはしゃいでいた亘はゆっくり顔を上げる。・・・悲しそうに・・目を伏せた美鶴がいた。
「そんなこと・・・ないよ」亘はきっぱりと言った。
「美鶴は僕を助けてくれた・・何度も何度も、助けてくれたじゃないか」
「結果的にそうなっただけだよ」「違うよっ!」
亘は手を伸ばした。しっかりと美鶴の首にしがみつく。美鶴が目を細めた。
「違うよ・・・違うよ違うよ・・・」亘はギュッとしがみつく手に力をこめる。中学生になってからはお互い背がのびて二人の背の高さはあまり変わらない。美鶴がかろうじていつも亘より高さ5センチをキープしていた。亘の頭に手をやりながら美鶴は微笑んだ。そして言った。
「亘。明日亘のクラスの皆に俺が魔法をかけるから」
「え・・」しがみついてた亘が顔を上げた。「亘が魔法なんか覚えるよりそのほうが簡単だ。亘のするマジックがすごいものに見えるよう、俺が魔法をかけるから亘は心配しなくていい」
「・・・でも」
「その代わりそれが俺の使う最後の魔法だよ」美鶴は亘をまっすぐ見て言った。
美鶴から離れると亘はうなだれた。「ごめん・・・」「なにが?」
「美鶴・・本とは魔法なんか使いたくなかったんだろ?・・・僕が無理いったから・・仕方なく使ったんだろ?・・ごめん」
離れていく亘を今度は美鶴がグイッと抱き寄せた。そして次には驚く間もなく、二人して雲の中から外にはじき出されゆっくりと落下していってるのがわかった。青かった空が何時の間にか朱に染まり始めていた。遠くに赤くなった太陽があった。
しっかりと亘の背中に両手を回して抱きしめながら美鶴の綺麗な瞳がすぐ間近に自分を覗き込んでいるのが見える。
落ちていく周りの景色を見ながら同時にああ、美鶴の目ってなんて綺麗なんだろうと亘はぼんやり考えていた。
「ほんとは・・・」
美鶴がゆっくり口を開く・・・言っていいだろうか。言っても大丈夫だろうかと・・その瞳にほんの少しの不安を宿して。
「ほんとは・・・亘に魔法をかけたい・・・」
亘はゆっくり目を瞬かせる。
「魔法をかけて・・鍵をかけて・・離さないように・・俺から決して離れないように。・・・亘に・・魔法をかけたい・・」
せつないせつない色を・・瞳に浮かべて美鶴は告白した。その言葉を聞いて亘は動けなくなる。
抱きしめる美鶴の手に力がこめられたのがわかった。
なに・・・?・・・なに言ってるの?・・美鶴・・そんなの・・・亘は胸が熱くなる。
「そ、・・んな・・・そんなの・・・」亘はやっと口を開く。しゃべると涙が溢れそうな気がした。言葉が続かない。
そんな魔法・・・美鶴・・そんな魔法・・僕は・・
・・・僕はとっくに・・・かけられてるよ・・・
亘はそっと美鶴の方へ手を伸ばす。言葉に出来ない。言葉にならないその思いを伝えたくて。
離れないよ。離れないよ。離れないよ・・・美鶴から・・・僕は絶対はなれないよ・・・
美鶴の手が伸びてきた亘の手をそっとつかむ。そして愛しそうにゆっくりと自分の唇にその手をもっていく。
朱い朱い夕日を背に・・・二人の影が落下しながらゆっくりと・・重なって・・ひとつになった・・・
後日、無事クラスのみんなの前でマジックを披露した亘は笑いものにならずにすんだ。
そして美鶴はそれ以来魔法を使う事はない。
ただ、時々・・本当に時々・・美鶴は亘を屋上に誘うようになった。
そのとき美鶴が亘に対して何をしているかは誰にもわからない。
いつも屋上から帰るとき・・・亘が顔を真っ赤にして出てくるところを見れば・・・
きっと美鶴にしか、かけることの出来ない魔法を亘にかけているに違いない。
幾千の星のどんな輝きよりも眩しい
空にたゆたう雲を凪ぐどんな風よりも優しい
安らかな暖かい幼子のどんな微笑よりも愛しい愛しい君に・・・
解けることのない魔法を・・・どうか、どうか・・かけさせて・・・・
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