きみと歩こう(美鶴編)
歩こう。歩こう。
亘は某メジャーアニメソングを高らかに歌いながら
俺の前をちょこまかと歩く。途中。あ、猫がいたとか言っては寄り道を繰り返す。
なんだってこう、子供っぽいんだろう。11歳ともなればもうちょっと
落ち着きがあったっていいんじゃないか。
アヤがピアノ教室に行ってもう帰ってくる頃だと言ったら
じゃあ、途中まで迎えに行こうと言い出した。
天気もいいしさ。散歩がてらにちょうどいいでしょ?
外は段々空が茜色になってきて確かにのんびり歩くには気持ちいい。
歩こう。歩こう。ぼくは元気。
すでに歌詞が変わり始めている亘の歌声を聞きながら
いつも見慣れているはずの景色がなんとなく違って見える。
歩こう。歩こう。一緒に歩こう。
亘がこっちを振り向きニッコリする。ああ眩しいな。茜色の空のせいかな。
いつもの当たり前の景色が亘と歩くだけでどうしてこんなに違うんだろう。
何もかもがどうしてこんなに眩しいんだろう
歩こう。歩こう。一緒に歩こう。
二人一緒なだけでどうしてこんなに・・・嬉しいんだろうな・・
歩いているだけ。ただ一緒に歩いているだけ。
それだけなのにどうしてこんなに・・・幸せなんだろうな・・・
亘と俺の影法師がときどき重なりながら・・・
ゆっくりと・・・俺たちについてきていた。
きみと歩こう(亘編)
散歩が好き。
あたりの景色を見ながら歩くのが好き。
知らない道を歩くのも好き。プチ冒険みたいで楽しいんだ。
ピアノ教室に行ったアヤちゃんを迎えに行こうと美鶴と外に出た。
二人で歩く。ただそれだけの事が僕はすごく嬉しくて楽しい。
美鶴はいつものこんな歩きなれた道を散歩したってつまらないだろって言うけど
そんなことないんだ。
おんなじ道でも何度歩いた道でも・・・違うんだよ。
美鶴と一緒に歩くだけで。
それだけで僕にとっては最高に嬉しくて楽しいんだ。すごく幸せな気持ちになるんだ。
一緒に歩ける。同じ道を歩く。些細な事だと思う?
僕は違うと思う。すごい事だと思う。
・・・奇跡のような事だと思ってる・・・
普通?当たり前?全然そんなことないんだよ。
僕は知ってる。共に歩ける事がどんなに素晴らしいことか知ってる。
そして共に歩けない事が・・・どんなに悲しい事か知ってる。
だから大事にしたいんだ。すごく大切に感じるんだ・・・
ただ一緒に歩くそれだけの事を。いつまでも・・・ね。美鶴。
きみと歩こう(アヤ編)
ピアノが終わってお家までの道をお友達とおしゃべりしながら歩いてたら
「アヤちゃーん」てアヤを呼ぶ声が聞こえたの。
前を見たらこっちに手を振ってる亘お兄ちゃんがいました。
「亘お兄ちゃん!」アヤも手を振りました。
「いいなぁ。アヤちゃんは素敵なお兄ちゃんが二人もいて。」
一緒に歩いていたお友達がそう言ってうらやましがりました。
「うん!いいでしょ。アヤ、お兄ちゃん二人ともだーい好きなの」
お友達にバイバイしてお兄ちゃんたちのところに走っていきました。
「アヤ!走るな。危ないぞ」美鶴お兄ちゃんはそう言ってすぐアヤを心配するの。
もう!アヤ、赤ちゃんじゃないのに。あっ!
「ほら、みろ。」そう言って転びそうになったアヤを駆け寄った美鶴お兄ちゃんが
支えてくれました。・・・・・あれぇ?アヤ気をつけてるのになぁ。
ちょっとだけしょんぼりしたら「アヤちゃん。手、つなごう」
亘お兄ちゃんがアヤの手を掴んでくれました。「美鶴はそっちね」
美鶴お兄ちゃんは少し笑ってもう片方のあいてるアヤの手をそっと掴んでくれました。
「こうすれば大丈夫。ね?」
うん。両方のアヤの手をお兄ちゃんたちが掴みながらゆっくり歩いてくれました。
アヤは嬉しくて嬉しくてお兄ちゃんたちの手をそっとほっぺたにくっつけました。
それを見ながらお兄ちゃんたちはお互いを、とってもやさしい顔で・・・見ていました。
きみと歩こう(そして3人で)
暮れなずむ空を見上げながら3人で手をつないで歩く。
まだ小さく軽いアヤを時折亘と美鶴は優しくその手を引っ張って
高い高いをするように軽くジャンプさせながら。
そして嬉しそうに笑い声を立てるアヤをもっと嬉しそうに二人で見つめながら。
3人で歩く道がどこまでもどこまでも続けばいいのにと
そっと願いながら。
ゆっくりとゆっくりと・・・歩いていく。
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