中学生ミツワタ。10年でも20年でも勝手にやっとれ小説・・・の割に相変わらず美鶴さんあまりいい目にあってません。果たしてこれは限定小説に続くのか?!(大笑)
unluckyなあなた
中学のクラス対抗球技大会。バスケットの試合で芦川美鶴右腕負傷する。
「ちょっと捻っただけだけど2、3日右腕は使わないようにね。無理すると治りが遅くなるわよ」
美鶴の右手首に重々しく真っ白な包帯を巻きつけた後に保健の先生はニッコリと笑った。
「・・・・・・・」
「大丈夫?美鶴」
難しい顔をして自分の右手をにらみ付けている美鶴に付き添ってきた亘が声をかける。
二人は中学ではクラスが違ったのだがくしくも美鶴が負傷した試合は美鶴のクラスと亘のクラスが対抗していた試合だった。
勢いあまった亘のクラスの生徒が思い切り美鶴にぶつかってきてよろけた美鶴がとっさに下に手をつこうとして手を捻ってしまったのである。その時はたいしたことないだろうとそのまま試合を続けていたら後になってどんどん痛み出し手首が腫れて来た。心配した亘が美鶴がいいと言うのを無理やり保健室に引っ張っていき、そして先ほどの宣告をされたわけだ。
美鶴はため息をつきながらボソッと言った。
「これじゃ何も出来ないな・・」
「仕方ないじゃん。無理したら治りが遅くなるって先生も言ってただろ」
自分のクラスの試合はすっかりほっぽって亘はちょっと怒ったようにそれでいてとても心配そうに言った。
「・・・そうだけど、そうもいかないからちょっと困ってるんだ」
「・・どうしたのさ?」
美鶴の話によれば実を言うと叔母が今日から会社の研修で泊まりで家を留守にするのだと言う。
自分ひとりならなんとでもなるがアヤがいる。食事の支度やその他をまだアヤ一人に任せるわけにはいかない。
それで美鶴は困っていたのだ。
「ああ、なんだ。じゃあ僕が泊まりで手伝いに行くよ」亘はあっさりといった。
「え?」
「1回家に帰って仕度してそれですぐ美鶴んちに行くよ。そうだよね。その手じゃお風呂はいるのも大変だもん。
僕、手伝うよ。心配しないで。じゃぁ、あとでね」
ニッコリ微笑みながら自分のクラスに亘は戻っていった。その後姿を思わずぼんやりと見送りながら美鶴の頭ではすごい勢いで警戒警報が赤く点滅しはじめていた。
あのっっ!!いま思い切り思いきり別の心配が浮かんでますっっ!!
「来たよー!」
「亘お兄ちゃん!」
やって来た亘にアヤが大喜びで玄関に飛んできて出迎える。
「今日はね。アヤちゃんの好きなミートスパゲティ作ったげるからね」
「本当?うれしい!」
中学生になって亘の家事仕事にはますます磨きがかかっていた。
炊事、洗濯、掃除、なんでもござれ。下手をすればいまなら母より完璧カリスマ主夫(?)の三谷亘くん14歳。
だから正直亘が来てくれる事はものすごく有難い。有難いのだが・・・
アヤと2人エプロンを付けて楽しそうにキッチンに立つ亘を美鶴は既に正視したくても正視できない。
今までも亘が家に来て料理をしたり、泊まりに来たりした事はもちろん何度もあるのだ。
しかし今回はちょっと・・・というよりだいぶ勝手が違う。
なぜなら亘は怪我をして右手が使えない美鶴の世話をしに来ているという事が大前提なのだから。
必要以上に亘が自分に近寄ってくるであろうことはもう明日の天気予報よりはるかに明白。
そしてつまりまぁ、それはどういうことかというと。
─頼むからもってくれ。俺の自制心─ ひそかに天に祈る芦川美鶴さん14歳。
「はい。あ~ん」
「スパゲティくらい片手で食える!!」
美鶴は亘からフォークを取り上げて叫んだ。
「だって美鶴右利きだろ。いくらフォークだっていつもと違う方の手じゃやりにくいよ」
「平気だって言ってるだろ!」
まるで新妻のように甲斐甲斐しく美鶴の世話を焼こうとする亘に既に軽い眩暈を起こしかけながら美鶴は表向きは平静を装いながらも実は内心動揺しまくり、理性グラグラの必死の対応をしているのだ。
唯一の救いは目の前のアヤの存在だったがそのアヤでさえ二人を見て笑いながらまるっきり邪気のない声で「お兄ちゃん方。面白い!まるで新婚さんみたい!」なんてセリフを平気で言って美鶴を途方にくれさせる。
頼むから煽らないでくれ!美鶴さんはまさに八方ふさがり。四面楚歌。
今の状況が果たして天国なのか地獄なのか判断することも出来ません。
「お風呂わいたよー。アヤちゃん先に入ってね」
「はぁ~い」
「美鶴はその後ね。髪洗ってあげるよ」
「いい」美鶴即答。「なんでさ!お風呂はいらない気?」そっけなくいう美鶴に亘が怒ったように言った。
「捻挫とかの時は少し患部に熱があるからそういう時は無理にはいらない方がいいんだ。」
「あ・・・そうなんだ」
大変もっともらしい美鶴の言い訳に亘は思わず肯く。「でも頭なら大丈夫でしょ?髪の毛くらい洗った方がいいよ」
「まぁ・・それくらいはな・・」
「ね?じゃあ僕がお風呂入った後洗ったげるよ。待ってて?」
エプロン姿で微笑む亘の「待ってて?」が今、別の意味の響きにしか聞こえない自分にさすがに頭を抱える美鶴であった。
「も、ちょっと頭前に出せる?うん。それくらいでいいや」
手のひらにシャンプーを泡立てて亘はそっと優しく美鶴の髪を洗う。結局体を濡らす事は出来ないので洗面台を使ってシャンプーする事にした。美容院でシャンプーするみたいに美鶴を椅子に座らせて亘はニコニコしていた。
「・・・楽しそうだな」
「なんかこういうのって美容師さんになったみたいでさ。面白いよ。それに・・・」
亘はそっと指を美鶴の髪に絡ませる。美鶴の綺麗綺麗なまるで子猫の毛のように柔らかい髪。
・・その髪にこんなに触れれる事なんて滅多にないし。
「気持ちいい?」
「ああ・・亘の指が、あったかくて・・気持ちいい・・」
「お風呂はいった後だからね」
美鶴もそっと目を瞑り思っていた。普段亘の手がこんなに永く自分に触れてる事なんてあまりない。そのことが単純に嬉しかった。
だからその指の動きの優しさに・・その指の温かさに・・自然に次の行動をとってしまった。
誓ってもいい。その時確かに美鶴に邪心はなかったのだ。
「亘・・」
美鶴は自分の髪に触れる亘の手を優しく掴んだ。「え・・・」
そしてその手に緩やかに唇を寄せた。愛しそうに大事そうに。
亘は美鶴のその行為に大きく目を見開いて思わずシャワーの温度調節の栓に手をひっかけてしまった。
「?!・・っ!アチッ!!」
「わっ!ご、ごめん!」
驚いた美鶴が思わず椅子から立ち上がりすぐ側にいた亘にぶつかって二人でバランスを崩して倒れこんでしまった。
「わたっ!!」
頭を少しぶつけた亘が顔をしかめる。でも次の瞬間慌てて目を開け声をあげる。
「ごごめん!美鶴・・だいじょ・・」
ポタン・・・
顔に滴が落ちてくる。ポツリポツリと降り始めた雨のように滴の落ちてくるその先を見れば髪を濡らして少し顔を上気させながら自分を見ている美鶴の瞳がすぐ間近にあった。
使えない片手をかばいながらそれでも亘に自分が覆い被さらないようかろうじて片手だけで自分を支えて。
それでもそのどこか熱をおびた瞳を亘からそらそうとせず・・・じっと見つめていた。
ド、クンッ・・・!
え・・・?
亘は思わず自分の胸に手をあてる。いま、ものすごく大きな音を立てて跳ねた鼓動が自分の物とは思えなくて。
「亘・・・」
そっと美鶴の手が触れてくる。亘の唇をなぞるように・・触れてくる。
「みつ・・・」
「お兄ちゃん方、なにやってるの?」
ドッキーーーン!というより、今の二人に当てはめる擬音はどちらかというとギックーーーン。
「ア、アヤちゃん!」
顔を真っ赤にして慌てて離れる二人をアヤは不思議そうに見ていた。「どうしたの?お顔真っ赤よ」
「あ、あの・・えと!か、髪洗ってたんだけど美鶴がちょっとのぼせちゃって・・」
「髪洗っただけでのぼせたの?ヘンなお兄ちゃん」
苦しい亘のいい訳に首を傾けながら、おやすみなさい。といってアヤは自分の部屋に行く。
その姿を見ながら思わず大きく息をつく二人だった。
その後別に意識した訳ではないのだがどうも亘は落ち着かなくなってしまった。
いつもは美鶴の部屋に布団を引くかリビングで二人分の布団を引くかして、どちらにせよ一緒の部屋で寝るのだがなんとなく今日はそれが躊躇われた。まぁ、早い話がさっきの事を思い出すと恥ずかしくて居たたまれない。
だから亘は出来るだけさりげなくなんとなくの口調で言った。
「あ、きょうは僕・・リビングで一人で寝るよ」
パジャマに着替え美鶴の部屋の前まで来て後ずさりながら亘は告げた。美鶴の肩がピクリと揺れる。「・・・なんで?」
「え、あの・・ほ、ほら。美鶴も怪我してる事だし一人でゆっくり寝たほうがいいだろ?一緒にいればどうしてもおしゃべりしたりして何時も寝るの遅くなるじゃん!だから・・」
少ししどろもどろになりながら亘は言った。その亘の姿を美鶴はじっと見ていたがおもむろに口を開いて問い掛ける。
「亘。ここにひとつの問題があるんだ。この問題の答えは何だと思う?」
は?意外な問いかけに亘は思わず顔を上げる。なんだろう。いきなり勉強の話だろうか?
なんにせよ、美鶴のわからない問題が亘にわかる訳がない。ポカンとしながら聞いていた。
「エプロンの似合うすっごい可愛い子がいます。そしてその子のすぐ側には思春期真っ只中のあまりにも健全な男の子が一人」
はい?
「可愛い子は天然で無邪気すぎて自分のやってることがその男の子を惑わせてる事にも気づいてません。男の子は内心ものすごく大変な思いをしております。・・・じゃあ決まってるよな?・・どういう答えが出るか」
「・・・美鶴、何いってんの?」
亘は本当に訳がわからず聞いた。何の話だか本当にわからないという顔をする亘をまっすぐ見つめると美鶴は軽いため息をついて次に思い切り亘の手を引き、自分の部屋のベットの上まで引っ張っていった。
「わぁっ?」
ドスンとベットに押し倒され亘は何事が起きたのかと驚きの声をあげた。美鶴が上から覆い被さりポツリと言った。
「もう、抑えがききません」
はい?はい?はいーーー?!!!
「わ!ちょ、ちよっと・・・ひゃあっ?」
片手しか使えないくせに美鶴は器用に足を使って亘を押さえ込みパジャマの中に使えるほうの手を滑り込ませた。
「わっ・・や、やだ。ひゃっ!く、くすぐったい・・、美鶴!くすぐったいよ!だ、だめだよ。手、怪我してるのにくすぐりっこするの!ま、また今度にしよ・・・って・・ひゃははっ!」
てんで色気という物に無縁の叫び声を上げ、この行為の意味をまるで理解してない亘に美鶴はくじけそうになる。
亘の肌を滑らせていた手を止めて尋ねた。
「亘、くすぐったいだけ?・・・・」
「ひは?う、うん・・こそば過ぎて涙出る・・・」
亘は笑いながら本当に目じりに涙を浮かべていた。今度は美鶴を太字でガクーーッという擬音が襲う。
「片手じゃ無理か・・・」
そういう問題ではないと思うのだが。
「美鶴?」乱れたパジャマの裾を直しながら亘はうなだれた美鶴を覗き込む。そしてなんだか落ち込んだ様子の美鶴に何がどうなのかまるでわからなかったのだがものすごく悪い事をしたような気がして思わず言ってしまった。
「あ、あのさ。元気出してよ。こんなの手が治ってからいくらでも出来るじゃん。今、無理したら治るの遅くなっちゃうよ!美鶴の手が治ったらくすぐりっこでもプロレスごっこでも何でも付き合ったげるから。何でも言う事きくからさ!」
うなだれていた美鶴がピクッと動き「何でも言う事をきく」の言葉に多大な反応を示した。
「なんでも・・・?」
「うん!約束する。絶対美鶴の言う事聞くよ」
亘はニッコリ微笑んで自ら墓穴を掘ったことにもまるで気づかず美鶴の手を取ると指きりげんまんをした。
ここにエプロン姿の可愛い子は健全思春期真っ只中の男の子の側に無防備にいればどうなってしまうかという公式を見事証明するはめになる。
・・・・・のは、美鶴の手が治ってからのもうちょっと後のお話。(笑)
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