カフェオレとシナモンドーナツ
日曜日。そんな日曜日。そんな一日。二人で過ごすそんな一日。
「カフェオレに一番会うお菓子ってなんだろなぁ?」
お気に入りの特大マグカップになみなみと注いだ熱々のカフェオレに息をフーフー吹きかけながら亘はいった。
目の前に置かれた、こちらはブラックコーヒーの注がれたカップに手を伸ばそうとして美鶴は亘の方を見る。
そして笑いながら言った。「何だよ。おねだりか?アヤの焼いたクッキーでも持ってきてやるか?」
美鶴の言葉に亘はキョトンとした顔をしながら次に頬を膨らませた。
「小さい子ども扱いするなよ!お菓子が欲しいわけじゃないよ。話題だよ!話題!」
「いらないのか?」
「・・・いるけど」
ここは美鶴の家。ちなみに今日は日曜日。久しぶりに亘は美鶴の家に遊びに来ていた。
またちなみに今の彼らは現在高校二年生・・・になって、亘はやっとコーヒーが飲めるようになった。
といってもまたまたちなみに飲めるのは上記の会話でおわかりのようにミルクたっぷりのカフェオレオンリー。
そして美鶴にいわせればそれはほとんどミルクコーヒー。だって割合がミルク7:コーヒー3。
それに砂糖がたっぷりとくれば。
中学の頃からコーヒーをブラックで飲んでいた美鶴にすればまぁ要するにお子様の飲み物だ。
もともとそんな甘い飲み物を飲んでてさらになんのお菓子があうんだろう、なんて。
話題としたって高校生男子がする話題ではないのではないですか。亘くん。
「クッキーもおいしいけど・・やっぱりドーナツかなぁ」
アヤの焼いたクッキーをほおばってニコニコしながら亘はそれでもまだ先ほどの話題を続けていた。
「・・・でも、ドーナツにしても何のドーナツが合うかな。・・・チョコ味?・・クリーム系?・・・うーん・・」
美鶴のベットでゴロゴロしながらサイドテーブルに置かれたクッキーに手を伸ばしカフェオレを飲む。
「・・・行儀が悪いですよ。亘お兄ちゃん!」
アヤの口調を真似しながら美鶴が伸ばしてきた亘の手をペチンと叩く。亘が口を尖らせた。
「いいじゃん。日曜日くらい」
「そういう問題じゃない。アヤが作ったせっかくのクッキーを寝転がって食うな」
「はーい。ごめんなさぁい。美鶴お兄ちゃん!」
亘も負けじとアヤの口調を真似していった。「似てない。かわいくない」美鶴はコーヒーを口に含みながら言った。
「悪かったね。シスコン美鶴さん」
「お前に言われたくない。マザコン亘くん」
軽口を叩きながら二人は顔を見合わせ目を合わせた、と同時にどちらからとも無く吹き出して笑いあった。
美鶴はコーヒーのカップをテーブルに置くとベットに近づく、そして亘の横に自分もゴロリと横になる。
「で?」
「うん?」
お互いの腕を枕にしながらぼんやりと天井を見上げて美鶴が聞いた。
「カフェオレに合うスィーツはなんでしたか?」
「うーん・・そうだなぁ。やっぱりドーナツだと思うんだけど何のドーナツかなぁ、と思ってさ」
「ドーナツにそんなに種類あるものなのか?」
亘はポカンと美鶴を見る。美鶴は甘いものをほとんど食べない。だからそういう店にも全然行かない。
知識としてスィーツとか言う言葉は知っていても実態をわかってなかったりする。
亘は思わず声を出して笑ってしまった。今度は美鶴がポカンとした顔で亘を見た。
「美鶴~!女の子と付き合ってデートする時はそういう事は言わない方がいいよ」
「なんだよ、それ?」
「女の子はスィーツにはうるさいからね」
「訳わからないな」
「とにかく女子のアイドルはイメージダウンしてはいけません!」
「面倒くさい」
美鶴はわざとため息をつく。スィーツとアイドルとイメージダウンと何がどうつながるんだかさっぱりだ。
「あっ!」
「今度は何だよ?」
「シナモン!」
「しなもん?」
「・・・美鶴、カタカナ変換してよ。・・そうだ!シナモン!シナモンドーナツ。シナモンドーナツがいいや」
カフェオレに合うスィーツを亘くんはとうとう発見したらしい。
「シナモンドーナツ・・・シナモンのドーナツか」美鶴さんそのまんま。
「おいしいのか?」
「おいしいよ。うん!カフェオレにも絶対合うよ!」
「ふーん」
相槌を打ちながらも美鶴は明らかに興味がなさそうな声を出した。亘は一人でウキウキとしゃべり続ける。
「うん!いいな。シナモンドーナツ。よーし!買ってこよ」
亘はガバ!とベットから飛び起きた。
「今行くのか?」
「うん!」
思いついたら即行動。高校生男子はこうでなくてはいけません。・・・て、おい!!
「一緒に行く?」
「ドーナツ買いにか?男二人で?」
「いいじゃん別に。おごるよ。シナモンドーナツ」
「しなもんどーなつか・・・・」
「美鶴さん。カタカナ変換してってば!そのかわりカフェオレおごってよ」
「まだ飲むのか?」
「だからカフェオレでシナモンドーナツが食べたいんだよ!」
美鶴は仕方なくベットから体を起こす。亘は言い出したらきかないのを知っていた。
おそらくもう頭の中はカフォレとシナモンドーナツの事でいっぱいでよほど高性能の亘くん脳内掃除機が無い限りその考えを廃除することは不可能であろう。
「わかった・・・行く」
美鶴はため息をつきながら外出の準備を始めた。
二人で上着を羽織って玄関で靴を履いて外に出る。先に出た亘がクルリと振り返りニッコリ微笑んでいった。
「デートですね!」
その亘の言葉に美鶴は思わず本日二度目のポカン。けれどすぐに自分も微笑んで言った。
「ドーナツを買いに行くだけですが」
「いいです。それでも嬉しいです」
ふざけあうように改まった口調で会話しながらゆっくり歩き出す。
「スィーツをあまりわかってない彼氏でもいいんですか?」
「いいですよ」
「じゃあ、せっかくだからこっちもお願いしてもいいですか?」
「なんですか?」
「本屋にも寄りたいんですが」
「いいですよ」
お互いを見ながら。声を立てて笑いながら。ふざけあいながら。二人で空を見上げながら。たまに手をつなぎながら。
一緒にドーナツ買ってカフェオレ飲んでコーヒー飲んで本屋さんよって欲しかった本を買っていつのまにか日が暮れて。
帰り道また二人で並んで歩いてまた二人で笑って。
日曜日。そんな日曜日。そんな一日。二人で過ごすそんな一日。
亘と美鶴。カフェオレとシナモンドーナツ。美鶴と亘。シナモンドーナツとカフェオレ。
・・・そんな一日。
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