予告短編第2弾です。世の皆様が素敵ハロウィンネタを書いてる頃。自分はこれかい!とさすがにちょっと・・・どうなんでしょう・・・でもこんなのに限って書いててすごく楽しいんですよぅ・・・うう・・・走れ!美鶴(ヤケ)
美鶴ランナウェイ!
「優勝賞品は芦川美鶴を一日独り占めできる権だ!!」
「な~んかいまいち盛り上がらないんだよなー」
休み時間。カッちやんが珍しくぼやいた。隣で図書室から借りてきた
本を読んでいた亘が顔を上げる。その隣には美鶴もいた。
「どうしたの?」本を閉じながら亘が聞いた。
「マラソン大会の事なんだけどサ」「ああ、カッちゃん。準備委員だもんね」
亘達の小学校は秋に全校マラソン大会というものがある。開会には花火が上がり有志の先生方も加わって高学年は町内を7キロほども走る。それなりに大きなイベントなのだ。
「なんかいまひとつみんなのやる気がないっていうか・・・こう、イベントに向けての盛り上がりに欠けてる気がすンだよな~」イベント好きの小村克美としてはこう言った行事はキチンと盛り上がらなければならない重要なものらしい。
「う~ん・・でも、仕方ないんじゃない。長距離マラソンなんて好きな人そうそういないしさぁ・・」
「まぁな~・・・そうかもしれないけどせっかくの全校での行事なんだし・・・」
「あ!そうだ賞品でも出れば盛り上がるかもね」もちろん冗談だけどさ、と言って亘は笑った。
キラーン!カッちゃんの目が光った。「なるほど・・・賞品か・・・」
「え?カッちやん本気にしないでよ。そんなの先生方が許可するわけないじゃン」
「先生方が許可するような賞品にすりゃいいンだよ!」カッちゃんの脳細胞はこういうときはフル回転する。
「え?・・・」
カッちゃんはこの危機を救えるのは君しかいない!よってこの重要任務に指名する事を感謝せよ!とでもいいたげにビビッと美鶴を指差した。
「芦川を賞品にすんだ!」ハイー!!?亘は思いっきりずっこけた。
「な、何いってんの?」
それまで我関せずの立場を取っていた美鶴が大きくひとつため息をついた。
「全校一の注目人物。女子にはもてもて、実は男子にも隠れファン多し!(そ、そうなの?BY亘)先生方だって実は常に狙ってる(何をだ)芦川美鶴が賞品!これ以上の盛り上がる話題はないゼ!」
カッちゃんは興奮しながらまくしたてた。亘は自分のいった事がこんな発展をするなんて夢にも思わず途方にくれた。
「おい・・・」そこで美鶴がやっと口を開いた。
「あ?何だ芦川?もちろん協力してくれるよな」
「する訳ないだろう!いいかげんにしろっ!だいたい賞品てなんだ。俺は物じゃない」
「そ、そうだよ。カッちゃん」二人の非難の視線を浴びながらカッちゃんはそれでも己が考えを曲げるつもりはないようだ。
ひとつ息をつくとこう言った。「いや、芦川わかってる。俺だって何もタダでそんな重要任務を引き受けてもらおうなんて思っちゃいない。」何を言い出すつもりなのか。亘はなんとなく嫌な予感がした。
「引き受けてくれたら亘の幼稚園のときのお泊り会の寝姿写真贈呈!激レアだっっ!!」きゃ~!!
「な、何いってんの?何いってんの!カッちゃんっっ!!」亘は真っ赤になって手足をバタバタさせる。
「・・・・寝姿・・・」「わー!美鶴っ!なに考え込んでんのさっ」
「あ、そういや風呂入ってる写真もあったかな?・・・」きゃあぁぁ~!!
「・・・受けた!!」
かくして美鶴は見事甘い罠に落ちた。
芦川美鶴が賞品。その話はまたたくまに学校中を駆け巡り、全校生徒はおろか教師一同にまで(特に女性教師)俄然やる気を奮い立たせ、早朝放課後を問わず走り込みをする姿が多く見られるようになった。
してやったりのカッちゃんは大いにご機嫌である。この分なら当日も間違いなく盛り上がるだろう。
「まったく芦川さまさまだよなー!」「・・・・・」
ご機嫌なカッちゃんの横で亘は面白くなさそうな顔をしていた。
「なんだよ。亘。まだ根に持ってんのか?いいジャンか。幼稚園のときの写真の一枚や二枚・・・」
そんなことじゃない・・・いや、正確にはそれも大いにあるのだが。今はそんなことではなく・・・亘は美鶴が自分以外の誰かに一日でも独り占めされるというのが・・・いやだったのだ。
亘に亘の世界があるように美鶴には美鶴の世界がある。美鶴が亘以外の人間と親しくしたり付き合っていくのは当たり前だが、全く美鶴の自由に決まっている。
・・・なのに美鶴の側に必ずいるのは自分だなんて何時の間に思い込んでいたのだろう。
「・・・・・」
自分は何時からこんな心の狭い人間になったのか。亘はそんな自分に気づいて嫌になった。
「亘」何時の間にか目の前に美鶴がいた。ボーっとしていたのか、カッちゃんがいなくなった事にも気づかなかった。「あ、美鶴・・・」なんとなく今の自分を見られたくなくて亘は顔をそむける。
「ちょっといいか?」美鶴は人気のない階段の踊り場に亘を呼ぶ。
珍しい。美鶴がこんなとこで話なんて。「なに?」
美鶴はまっすぐ亘を見つめながら言った。
「俺は亘以外の誰にも俺を独り占めさせる気はないから」
「え?」
「亘以外の誰かに、一日だって俺は自分を渡す気はないよ」
「美鶴・・だって・・・」「亘はいいのか?俺が一日でも亘以外の誰かに独り占めされても?」
「・・・・」亘は俯く。言葉を言いよどむ。言ってもいいのだろうか・・・これは我ままじゃないの?
「・・・ぃ、やだ・・・」小さな小さな声で亘は呟いた。その言葉を聞いて美鶴はホッと嬉しそうに微笑んだ。
「じゃあ決まりだな。」「え?」赤くなりながら亘は顔を上げる。
「優勝するのが亘か俺になればいいのさ」策士美鶴が動こうとしていた。
放課後。走りこみのための準備運動をしながら亘は言った。
「でも正直・・・僕、長距離苦手なんだ。だから自信ないよ」隣で同じく体をほぐしていた美鶴も言う。「俺もだ」
「じゃあどうするの?」美鶴は亘の頭をポンと叩くと「亘はとりあえず普通に練習してればいい」と言って笑った。
「でも・・それじゃ絶対優勝は無理だよ」心配そうに美鶴を見上げる。
「正攻法で行けば、な」何を考えているんだ。芦川美鶴。いまひとつ不安だったが美鶴がこう言うのだ。多分大丈夫なのだろう。亘はやっとホッとした笑顔を見せた。
「トラップを仕掛ける」
「・・・・・・・・・」
もはやこの二人のトラブルに巻き込まれる事は自分の運命なのだろうか。宮原はそう思わずにはいられなかった。
「芦川・・・常識で考えてくれよ。そんなことできる訳ないだろ・・・」
「俺と亘は少なくても上位20人の中に食い込む事は可能だからこの20人を何とかすればいいんだ」
聞いてくれよっ!頼むから!宮原は泣く気力もうせてきた。
「中には先生方もいるんだぞ」「そんなのは関係ない」・・・・そうですか・・・
「協力してくれるな?」断る選択権がぼくにあるんですか?「わかった・・・・」力なく答えながら宮原は頷いた。
「・・・にしても、芦川。その三谷の激レア写真とやらは小村からしっかり貰ったんだろう?多少は義理立てしようとか思わないのか?」常識人宮原君。もっともな事を聞く。
「亘のその写真を今まで(ここ強調)小村が持ってたんだぞ?呪わないだけ俺はまだ理性的だ!!」
・・・・非常識人芦川に聞いたのが間違いだった・・・・
パパーン!
大会開始の花火が高らかに鳴り響く。折りしも晴天。かつてない盛り上がりと緊張感を持ってマラソン大会は始まった。
「絶対優勝するわ!芦川君とデートするのよっ」
「次のサッカーの大会に助っ人で呼ぼうぜ!」
「テスト作成を手伝ってもらうわ!放課後二人きりで!」(これは女教師か?)
めいめいが野望に燃えている。空恐ろしい雰囲気に亘は怖気づいた。
ポン!後ろから肩を叩かれた。「宮原!」亘はホッと息をつく。
「芦川から伝言だよ。これから何があっても三谷は気にしないで走りつづけるようにって」
「え?美鶴、今どこにいるの?」宮原は言いよどむ。
「えー・・・とにかく気にしないで走ってよ。わかったね?」
「う、うん」一体何が起こるのか。これは間違いなくマラソン大会のはずだよね?走り去る宮原を見て亘は思った。
距離が進むごとに上位メンバーが20人ほどに絞られてきた。その中の後ろの方にかろうじて亘はいた。でもついて行くのがやっとだ。とても抜きされそうにはない。メンバーの中には先生も二人ほど(共に女教師)混じっていた。
(美鶴はどこいったんだろ・・・)あたりを見回してもどこにも美鶴の姿はない。
「がんばれー!残りは後一キロだぞーっ!」委員のカッちゃんが中継地点で声を張り上げる。その声を聞いたとたん全員が一気にラストスパートをかけてきた。何人かがついていけなくて離脱する。
(ダ、ダメだぁ。ついていけないよ)亘は歯を食いしばった。
「大変だー!校長先生が倒れたぞーっ!」どこからともなく大声が上がった。先生方が振り返る。
「救急車がきてます!先生方は全員集まってください!」何でこんなときにー!という明らかな非難の声をあげる訳にもいかず女性教師はともに後ろ髪を引かれつつ泣き泣き戦線を離脱した。残るメンバーは亘を入れて約15人程。
ほとんどが運動部所属のつわものだ。そして半数は女子だった。
「ん?」もう学校は目の前。ゴールは目前というところで何かがあるのが見える。大きなダンボールの箱だ。
「ああっ!」
ミャーミャーミャー。そこには大きな瞳に僕達を見捨てないで光線を遺憾なく発揮しているこれ以上ないくらいのラブリー子猫たち!
「くっ・・・・」見ないように見ないように・・・顔を背けようとする一同・・・だが!
「ダメだっ!スルー出来ないっ!!」幾人かの生徒が半泣きになりながら子猫たちに駆け寄る。真に正しく美しい姿といえる。本来は・・・・。
次々と起こる不可思議な現象に亘は頭の上に?マークを乱舞させながらとにかく必死に走っていた。いよいよ校内に入った。グラウンドを2週してゴールだ。亘の息はすっかり上がっている。足もグンと重たく感じてきた。でもまだ自分の前には7人ほどの生徒がいた。
ヒュッ。何かが風を切ったような音を感じた。思わず後ろを振り返る。(え・・・・)
全力疾走してくる美鶴が見えた。頭のハチマキをなびかせてわき目もふらずにこちらに駆けて来る姿はさながら翼の生えたイカロスのようだ。速い。見る見る距離を縮めている。
あっという間に亘に追いつくとその手を掴んだ。「み、美鶴!いままでどこにいたの?」
「ずっとすぐ後ろを走ってたよ。見つからないようにはしてたけどな」亘を引っ張り、上位の生徒との距離を詰めながら美鶴は言った。そう。美鶴はこれはトラップには引っかからないだろう、と予測されるメンバーには賭けに出るしかないと踏んでいた。
つまり出来るだけ自分の力を温存してラストスパートに力を注ぐ事にしていたのだ。得てして最初に張り切りすぎると最後は踏ん張りが利かなくなるものだ。事実上位のメンバーの速度はどんどん落ちてきていた。美鶴はそれを狙ったのだ。
すぐ目の前を女生徒たちが走っていた。彼女達も必死である。なんとか美鶴たちを引き離そうとする。美鶴はその中にグイと体を割り込ませると極上の笑顔で振り返った。
「やぁ。あなた達速いんですね。しかも皆さん可愛いし。誰が優勝されても僕は嬉しくて困るな」
その場に宮原がいたらおそらく凍り付いて動けなくなったであろう。しかし少女達はまれに見る美鶴の笑顔にすっかりトランス状態となり、ポーとなってその場に固まった。ある意味これもトラップといえる。
美鶴はすかさずダッシュをかける。残りは3人だ。
「み、美鶴・・・」亘は苦しそうに息をついだ。すでに2人を抜いた。残るは1人だ。
「俺か亘以外の誰にも優勝なんかさせない。亘以外の誰にも俺は独り占めになんかされたくない」
グッと肩をつかまれた。今、美鶴はされたくない・・・と言った。されない・・・ではなく。されたくない・・・・。
ああ、そうか。美鶴も同じなんだ。僕とおんなじなんだね・・・苦しいのに自然に亘は微笑んだ。
そして最後の力を振り絞った。美鶴と・・・美鶴と優勝するんだ!
目の前のゴールテープが切れる。倒れこむように二人でゴールする。
「優勝は同着で芦川美鶴と三谷亘!!」
ワァァー!
優勝を告げる声と喚声が青空に高く吸い込まれていった。
マラソン大会の終わった週の日曜日。亘は美鶴の家にきていた。
「うー・・やっぱりまだちょっと辛いや。美鶴は平気なの?」筋肉痛の足をさすりながら亘はうめいた。
「まぁ、ちょっとはな。でもそうでもない。鍛え方が違うさ」それを聞いて亘はむぅとふくれる。そしてはた、と思いついたように聞く。
「そういえばさぁ。宮原ってどうしてたんだろ?最初にあったきり、大会が終わっても見当たらなかったけど」
「ちゃんと50位以内に入ってたよ」「え?そうなんだ。すごいなぁ」
実際は大会終了後、美鶴のトラップ作戦の後始末に駆け回っていた事は亘にはもちろん内緒だ。
「小村もご機嫌だったしまずは無事終了してよかっただろ」カッちゃんの名が出たことで亘がギクッとある事を思い出す。
「美鶴・・・・」「何?」
「カッちゃんから貰った、写真て・・・・」「あれかい?」
指差された方をみる。勉強机の上に写真盾があった。。蝶番のついた対の写真盾・・・ひとつには赤ちゃんのころのアヤの写真。
そして・・・もうひとつには・・・・・パジャマがはだけておへそを見せながら大の字になって寝ている幼い亘の姿が!・・・
「わーっ!わーっ!」慌てて亘は写真を奪い返そうとする。「おっと!」すばやく美鶴は取り上げる。
「かえしてよっ!返してよー!」「ダメだ。俺が貰ったんだから俺のものだよ。2枚とも。返せません」美鶴はきっぱりと言った。
「2枚・・・」亘はサーッと血の気が引く。
「お・・・おっ・・・ふろの・・」「うん」
「どっどこ?どこにあるの?」「さぁ?」
「わー!バカバカバカッ!美鶴のバカッ!返せーッ!」
次の日。一日その攻防を繰り広げたせいで更に筋肉痛がひどくなリ、ぐったりしている亘の横で今度はどうやってカッちゃんから亘の激レア写真を手に入れようか思案している涼しい顔の美鶴がいた。
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