千カウントお礼小説。一応題に千を引っ掛けてみました。・・・って、それよりいいのか?これいいのか?予告してしまった女装ネタです・・・亘おしゃれにヘンシーン!大注意!ごごめんなさい!ごめんなさい!(大汗)
君に捧ぐ千の言葉
「証拠を見せて!」
ある昼下がりの日曜日。健全な小学生ならば誰もがその休みを謳歌する事に夢中になるであろうミンミンゼミがサービス良く鳴く夏の一日。
芦川美鶴は3人の美少女に囲まれ、ミンミンゼミの大合唱を聞いていた。
「え?か、彼女?美鶴、彼女できたの?」
亘は思わずゲームのコントローラーを取り落としそうになった。
ここは美鶴の家。今日は亘が新作のゲームを持って遊びに来ていた。
「違う。彼女が必要になったって言ったんだ」まるで今やってるゲームの勇者の装備が足りないから買い足すんだ、程度の口調で美鶴は言った。
「・・・?どういう意味?」美鶴は事の繊細を語り始めた。
過日。小学校同士の親睦を深めるとか言う名目でドッジボール大会があった。
各学校の高学年から選抜で選手を選び、チームを作っての大会だったのだが当然と言うべきか美鶴はその中に名を連ねていた。
そしてこれまた当然というべきかその美鶴の一挙手一投足全てがその場にいる全員の注目するところとなり、特に女子生徒からは終始感嘆のため息が漏れていた。
そしてまたまた当然の結果というべきか幾人かの女生徒のハートを見事に打ち抜いてしまったわけだ。
その結果が日曜日に待ち伏せされて、3人の女の子からの「お付き合いして!」攻撃である。
「3、3人から・・・」
一度としてそんな経験のない亘は驚くしかない。
「面倒だったから俺は付き合ってる子がいるからって言って断ったんだ」
面倒だったって・・・亘はなんとなく脱力してしまう。美鶴って女の子に興味ないんだろうか?
「そしたら証拠を見せろ。その彼女に会わせてって言われたんだ。」なるほど。そういうことか。
「フーン・・・どうするの?誰かクラスの女子にでも協力してもらうとか?」
亘は3人から告られるなんてめったにある事じゃないのになぁ・・・もったいないなぁ、と正しい男の子なら誰もが思うであろう感想を心で述べた。
「亘」
美鶴の声が急に真剣みを帯びた。「?なに」
「このゲームの一番面倒なイベントをクリアしたら俺の言う事なんでも聞くって言ったよな」
「妖精のルルも最後まで連れて行きたいんだ。でも難しいんだよ」
「わかった。それをクリアすれば俺の彼女になってくれるな?」
「うん。わかった・・・・って!なにっっ!?なにっ?!今美鶴なんて言ったのっっ?!」
亘は今度こそコントローラーを取り落とした。
「いやぁぁ~!亘くん!可愛すぎーっっ!!」
次の日曜日。このたびの「美鶴には彼女がいますミッション」の全貌を聞きつけ何が何でも亘の女の子仕様、いわゆるおしゃれにヘンシーン!させるのは私!といって聞かなかった美鶴の叔母の嬌声である。
「うん!亘お兄ちゃん、かわいい!すっごくかわいい!」
アヤまでもがピョンピョンはねて大喜びだ。
「ア、アヤちゃん・・・」
情けなさと恥ずかしさで今にも泣きそうになっている亘の姿は淡いピンクのタンクトップにデニムのジャケット。
プリッツの入った同じくデニムのミニのスカートに、生足のほうが絶対いい!という周りの意見をそれだけは絶対嫌だ!と猛烈に拒否したため7分の黒いスパッツをはいている。とどめはアヤのお勧めで前髪にヘアピン2本。サイドヘアーにはムースでちょっと跳ねまでいれられた。
もうどこからどう見てもちょっとボーイッシュだけどその辺の小学生アイドルなんか目じゃないわ!女の子亘の出来上がりである。
「や、やっぱり無理あるよ。きっとすぐばれちゃう・・・誰かほかの女の子に頼もうよ・・・」
「何言ってるの!絶対大丈夫。こんな可愛らしいコ、女の子でもそうそういないわよ。この私が保証するわ。」
あ、そうだわ。リップ塗り忘れてた、と更に亘をいじりながら美鶴の叔母は断言した。
そんな保証されても全然嬉しくありません!
「今日一日のことだから我慢しろよ。約束だろう。それにクラスの女子になんか頼んだ方が後々面倒な事になる」
美鶴は言った。クラスの女子にも美鶴狙いはわんさかいるのだ。そのうちの一人なんかに頼んだところで後々のトラブルの元は間違いない。
「ゲームクリアしてやっただろ」
「うううう・・・・」
あの後、光速の勢いでゲームをクリアした美鶴に誰が文句を言えたのか。
「それよりも名前はどうするの?「亘」なんていったらさすがに変よ」
まだ亘をあちこちいじりながら叔母が聞いた。
「ちゃんと考えてある」へーそうなんだ・・・って!何でそんなに用意周到なの?
もう亘は泣くしかなかった。
「なるほどミタニワタルをもじってワタタニルミ(ちなみに漢字変換。綿谷留美。BY美鶴)ちゃん・・・って!何で俺が呼び出されるんだっ?!」
3人の女生徒と待ち合わせしているという公園に美鶴と亘と宮原はいた。
「何かあった時の証人だよ。俺達が間違いなく付き合ってる。周りにも公認だって事を証言してくれ」
公認って・・・・この二人に関わるようになってから何百回ついたであろうため息を宮原はついた。
「ごめんよ・・・宮原・・」
後ろに手を組んでうなだれながら亘がぽつりと謝る。
その姿で言われるとわかっていても思わずドキッとしてしまう。
「いや、別に・・・三谷が悪いんじゃ・・・」
珍しく宮原はあせってしまった。それを横目で美鶴が睨む。
「お前が一番理性的だと思ってよんだんだからな。手を出すなよ」
あの、芦川くん・・・・してみると小村あたりが呼ばれてないのは意図的ですか。
「来たぞ」
公園の入り口に3人の少女達が現れた。亘と宮原が顔を上げる。そして二人して驚いた。3人は3人とも主観的に見ても客観的に見てもそろってとても美少女だったのだ。
亘は思わず、本とにこの3人をふっちゃうの?と叫びそうになったくらいである。
「彼女ってそのコ?」
3人の中でも特に容姿の見目いい一番長髪の少女が近づいてくるなり美鶴に聞いた。
「芦川くんの学校のコ?」
3人は値踏みをするように亘をジロリと眺める。亘は逃げ出したくなった。
「そこまで答える必要ないだろう」
かばうように亘の肩を抱くと「この子が間違いなく俺の彼女のルミだ」と美鶴は3人にむかって宣言した。3人は悔しそうに顔をゆがめる。亘の顔は真っ赤だ。
「確かに・・・まぁ、可愛い子ではあるわね。なんとなく芦川くんのタイプじゃない気もするけど」
「そうね。もっとお嬢さま的なコが好みかと思ったわ」
くやしまぎれなのかめいめいが好き勝手な事を言い始める。
「納得してくれたんならもう俺達はいくから」
そういって美鶴は亘の手を引いて帰ろうとした。
「待ってよ芦川くん。その子が彼女なのはわかったわ。でも別に彼女を一人に決める必要ないんじゃない?」
何を言い出すんだ?宮原と亘は顔を見合わせる。美鶴も相手の顔をゆっくり振り返った。
「あたし達まだ小学生なんだし。お付き合いって言ったって所詮はお友達の延長みたいなものでしょ?女の子の友達が少し増えたっていいじゃない。芦川君だってあたし達みたいな女友達もってて損ないと思うけど」
どうやら彼女達は自分達の容姿がいいのを十分わかっているらしい。そして美鶴がそれに見向きもしないのが面白くないのだ。美鶴はしばらく黙って相手を見ていたがやがてフッと笑みをもらして言った。
「なんだ。やっぱり君達の好きってその程度なんだな」
明らかに馬鹿にした口調だった。
「な、なによ!どういう意味よ!」
「言葉通りさ。損とか得とか、その程度の思いなんだなって事さ」
美鶴はもう一度亘を抱き寄せる。「俺は違う」
それは亘と宮原が聞いたこともない位真剣な声だった。
「俺はそんなことでルミを好きになったんじゃない。ルミだってそうだ。自分といると得をするとかいい目を見るとかそんなくだらない事で好きになったんじゃない。お互いが必要だから。誰よりも大事にしたいから・・・だから付き合ってるんだ」
そして美鶴ははき捨てるように言った。
「自分達のお飾りにする彼氏が欲しいなら他をあたるんだな」
3人の少女の目が見開く。怒りで震えているようだった。
美鶴はそれだけ言うと今度こそその場を去ろうとした。
「待ちなさいよ!」
長髪の少女が叫ぶ。
「たいしたもんね。それだけの事いうなら芦川君のその子に対する想いのほどを見せて御覧なさいよ!証拠を見せなさいよ」
「また証拠か・・・」
美鶴はあきれた声を出した。
「出来ないとは言わせないわよ。ここまであたし達に豪語したんだから!そう、その子に言って見せてよ。百回・・・ううん!千回好きだって言って御覧なさいよ」
無茶苦茶だ!それまで黙っていた宮原が口を出そうとした・・・が、美鶴は微笑ながらあっさり言った。
「そんなのでいいのか?」
「言いよどんだり、とちったりしたらアウトよ!真剣に千回言わなきゃ認めないわ」
「宮原」「あ、な、何だ?」
よばれて慌てて宮原は美鶴に駆け寄る。「カウントしてくれ」
どうやら美鶴は真剣にこのバカバカしいとしかいえない勝負を受けるようだ。宮原はうなずいた。
「ルミ」
一体自分はどうすればいいのか目を白黒させていた亘は呼ばれてハッとする。
「こっちにおいで」
近くのベンチに亘を座らせると美鶴はその前に跪いた。まるで姫にひれ伏す騎士のように。
「・・・好きだ」
そしてゆっくりとその魔法の言葉をつむぎだす。とぎらせることなく・・・絶えることなく・・・まるで歌うように。
亘は最初恥ずかしくて美鶴の顔をまともに見ていられなかった。・・・けれど途中から美鶴の目があまりに真剣なので顔をそらせなくなった。・・・・照れる事もなく・・・ごまかす事もせず、ただひたすらに想いを伝える澄んだ声。
(あ・・・)
涙が溢れそうになってきた。
そうだ。恋愛だろうが友情だろうが誰かを大切に思う気持ちに偽りがあってはいけない。そこに打算があってはいけない。
大事なのは自分が好きだと思う気持ちだ。そして何よりもそれを守りたいという純粋な想いだ・・・
ただ一人の命をかけて守るべき姫にいま、永遠の忠誠を誓うかのように美鶴はその言葉を唱えつづけた。
「・・・好きだ」
「・・・・千、だ・・・」
宮原が最終のカウントを告げる。すっかり美鶴に見とれていた少女達はハッと我に帰るともう、何も言うべき言葉が見つからなかったのだろう。悔しそうにそそくさと去って行った。
亘はポロポロと泣いていた。
「どうした?亘・・・ごめん。いやだったか?」
心配そうに美鶴がその顔を覗き込む。頭をフルフル振りながら亘は言った。
「ちが・・・うれし・・嬉しくて・・・」
嬉しくて。涙が出るほど嬉しくて。ポロポロポロポロ・・・涙が止らない。
「・・・・うん」
その言葉を聞いて美鶴も嬉しそうに亘の頭をそっと撫でた。
後日。宮原と美鶴は塾の帰り道を一緒に歩いていた。
クールな顔で横を歩く美鶴は本当にあの時と同一人物なのかと時々疑う。とても千の告白をした人物には見えない。
まぁ三谷限定なんだろうしなぁ・・・宮原は少しわかってきた。美鶴は決して女の子に興味がない訳ではないだろう。
ただこれだけの激しい想いをもっている人物なのだ。そうそう受け止めれる相手はいない。
そして・・・多分亘が初めてなのだ。美鶴という人間を丸ごと受け止めて受け入れた相手は。
そう考えると美鶴の「好き」というカテゴリに現在いるのはおそらく身内のアヤを除いては亘だけだ。
恋愛でもなく友情でもなく・・・・ただ「好き」というその存在。
ちょっといいかもなぁ・・・珍しく切ないため息をつく宮原だった。
更に後日談。その後美鶴は常に亘の女装写真を持ち歩き、自分に言いよる女の子達に彼女がいるからと嬉しそうにその写真を見せていたとの事。
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