もう最後だろうなぁ・・雪ネタ。シリアスの反動であまあまベタベタに飢えている・・・いいのもういいの。友情サイトに戻るのはもう無理なの(←オイ!)・・限定に続けばいいなぁ、これ。笑(そんなんばっかりや!!)
真白(ましろ)
まっしろ ましろ
まっしろはなぁに? まっしろはゆーき
ゆーきはなぁに? ゆーきはきれい
まっしろ ましろ
まっしろはなぁに? まっしろはゆーき
ゆーきはなぁに? ゆーきはとける とけるはなぁに? とけるはきえる
きえるは・・・
「何、ジーッと見てるんだ?」
呼びかけられて亘はハッとする。美鶴は読んでいる本から顔を上げると不思議そうな顔で亘を見返していた。
「あ、ごめん・・気が散った?」
「いや、別に。どうせ一度読んだ本だし只読み返してただけだから」
そう言って美鶴はパタン!と本を閉じるとベットを背もたれ代わりにして膝を抱えて座っている亘の横に行って自分も同じように座った。
「ごめん。退屈だったのか?」
そういう美鶴に亘は無言で首を振った。今日は日曜日で高校の試験も終わって久し振りに二人は美鶴の家でのんびりしていた。
本当は二人で買い物にでも出かけようと言っていたのだが・・・
「そうじゃないよ。・・大体この雪じゃ、出かけたくても出られないしね」
美鶴もまた無言になって窓の外を見る。
昨日から今日にかけて亘たちの住んでいる場所で、この時期に例年では考えられないような量の雪がシンシンと降り続いていた。
雪害対策が普段からとられているような区域ではない為、かなりの交通手段が麻痺しているのだ。
これではどうしようもない。亘は少し、ため息をついた。
「せめて雪が止んじゃえばな。・・・外で雪だるま作ったり、雪合戦したり出来るのにさ・・」
おいおい。それに俺が付き合うんでしょうか?もう高一なんですけど。口には出さずに美鶴は苦笑する。
「仕方ないだろ。こういう日もあるさ。コーヒーでも飲むか?入れてきてやるよ」
「うん・・・あ、いい!美鶴!待って」
「え?」
立ち上がった美鶴はセーターの裾を引っ張られて思わずきょとんとした顔をする。亘が寂しそうな悲しそうななんとも複雑な顔をして自分を見ていた。
「なんだよ?」
「・・・え、えと」
恥ずかしそうに俯きがちに戸惑いながら、それでも亘はセーターを離そうとしない。
美鶴はかがみこむとそっと亘の頭に手を置いて優しく聞いた。
「どうしたんだよ?」
俯いていた亘はチラ、と美鶴を見上げるとポツリと言った。
「美鶴・・真っ白だから・・」
「は?」
何の話だろうと美鶴は首をかしげる。今日、来ているセーターの色の事だろうか。確かに白だけど。
ちなみに真っ白な服はあまり、似合わないから止めておけ、といつも叔母とアヤにクレームをつけられる。
叔母に至っては──あんたまさか、自分のイメージに清廉潔白のカテゴリがあると思ってるわけじゃないでしょうね?──
などと、身も蓋も無い事まで言う。そんなのは余計なお世話で美鶴自身が一番良くわかっているのだ。
清廉潔白と言う言葉と白い色なら似合うのは断然亘の方だ。多分白い毛糸の帽子にふわふわの白いセーターなんか着せたら可愛くて似合いすぎて、叔母とアヤあたりは狂喜乱舞するのではないか。もちろん自分もだが。
まぁ、それはともかく。
「何が白いって?」
美鶴はもう一度亘の顔を覗き込むと問い掛けた。
亘はまだセーターの裾を掴んで俯いたまま、ポツリポツリと呟き始める。
「美鶴ってさ・・・綺麗だからさ・・なんかそんな白い服着て、白い雪降ってる窓の傍にいたら・・・」
確かにさっき本を読んでいる間は、椅子に腰掛けながら外の見える窓のすぐ傍にいた。
亘は降り続ける雪をバックにして本を読む美鶴をずっとジーッと見ていたのだ。
「まるで雪の精みたいで・・・」
大きな目をちょっと潤ませながら亘は顔を上げて美鶴をじっと見つめながら言った。
「溶けて消えて・・・なんだかいなくなっちゃいそうな気がしたんだ」
ポカン。
その言葉を聞いて美鶴は呆気にとられた顔をした。
亘らしい、いかにも亘らしい言葉だとは思ったけれど。そして多分そうしてしまったら亘は怒るだろうと思ったけれど。
美鶴はやはり笑いを抑える事が出来ずに思わず吹き出してしまった。
「・・馬鹿だな。何、いってんだよ・・そんな事あるわけない、だろ?」
・・・全くお前本当に高校生か?と言いたいのを美鶴はこらえてくっくっと必死に笑いをかみ殺す。
それを見て案の定、亘は頬を膨らませ赤くなると立ち上がって怒った声で言った。
「帰るっっ!!」
そうして自分のジャンパーを持って本当にドアに向かい始めた亘を美鶴は慌てて引きとめた。
「ごめん。亘、そんなつもりじゃない」
「やだっ!」
「亘」
亘の肩を掴む美鶴の手を振りほどきながらその瞬間美鶴は亘が本当に泣いているのを見た。
「亘・・?」
美鶴は正直驚いた。確かに笑ったのは悪かったけれど自分はそんなにひどい事をしたのだろうか。
亘が思わず泣いてしまうほど悪い事を言っただろうか。
亘は美鶴の方を見ずに俯いたまましばらく佇んでいたが、やがてかすれた涙声のまま静かに呟いた。
「思い出しちゃったんだ・・・」
「え?」
ポロリ。
一粒の涙が亘の頬から転がり落ちるのを見ながら亘の次の言葉を美鶴は聞いた。
「美鶴が・・まるで・・雪みたいに・・僕の腕の中で消えて無くなっちゃった時のことを・・・思い出しちゃったんだ」
美鶴は静かに瞳を瞬かせた。
ああそうか。そういうことか・・・
納得すると同時に美鶴は心にじんわりと暖かいものが満ちるのがわかる。
目の前でその時のことを思い出して悲しんでる亘には言えないが、それで落ち込んでくれたのかと正直嬉しかった。
「そんな事思い出すなよ・・」
美鶴は優しく亘の肩をつかむと自分の方に引き寄せる。亘の髪に唇を寄せながら慰めるように囁いた。
・・正直いうと・・美鶴は自分ではそのときのことを良く覚えてはいない。まあ、そうだろう。覚えていたいとも思わないし。
いくら今はこうしているとはいえ、自分が一度死んだ時の事なんて。消えてなくなってしまった時の事なんて。
だが亘は違うのだ。
ここに今こうして美鶴がいてさえ、その時の自分の無力感。絶望感。・・・切なさ、悲しさを・・ハッキリと思い出す事が出来る。
助けてやれなかった、一緒にいてやる事が出来なかった後悔の想いを。
自分の腕の中で消えていく美鶴をどうする事も出来ず、ただ名前を呼んで叫ぶ事しか出来なかった自分を・・思い出すのだ。
「亘」
その時のことを思い出してかすかに震え始めた亘を美鶴はそっと抱きしめる。
そして耳元で宥めるように・・小さな子をあやすように・・優しく囁いた。
「俺は消えないよ。溶けないよ。・・・居なくなったりしない。俺は雪の精なんかじゃない。ちゃんとここにいて亘のぬくもりを感じてる。亘を抱きしめてる・・・亘は感じないのか?」
その言葉に亘はうつろだった瞳を美鶴に向け、美鶴の瞳に視線を合わせた。
綺麗な琥珀色の美鶴の瞳に確かに自分が映っているのに気づく。
亘はそれをしばらく見ていたが、とたん体の力が抜けたようにホッと息をつく。そしてハッとすると慌てて自分で頬の涙をぬぐった。
「ご、ごめん!・・・変なこと言って・・」
ばつが悪そうに今度は赤くなると、自分が美鶴に抱きしめられてる事に今更ながら更に顔を赤くし、その腕から逃れようとする。
けれど美鶴は抱きしめる手に更に力を込め、亘を離そうとしない。
「み、美鶴、あの・・ごめん。も、もういいよ。その、離して・・」
腕の中に閉じ込められた亘はなんとなく恥ずかしくて、美鶴の顔を見ないように身じろぎながら告げる。
だがやはり美鶴は亘を離そうとしない。亘はどうすればいいのかわからなくなり、困ってしまった。
「亘」
「え」
美鶴は亘の顎をつかむとゆっくりと自分の方へ向かせた。
そしてその額に触れるだけのキスを落した。「わ・・・」亘はおもわずギュッと目を閉じた。
「確かに雪は溶けるけど・・雪が解けなきゃ、雪がなくならなきゃ・・春は来ない」
美鶴が歌うように、鳥の囁きのようにそういうのを聞いて亘はゆっくり顔を上げた。
どんなにつらい季節があったとしても季節がめぐらなくなる事は無い。過ぎない時間は無い。
そして新しい季節は誰の下にも必ず訪れて、新しい時を刻む事を許してくれる。
「いま、俺は亘の傍にいる。亘は俺のそばにいる。それが何よりも一番大切なことだ。・・・そうだろ?」
亘はそっと美鶴の背中に自分の手を回して抱きしめかえした。
「うん・・」
真っ白な真っ白な美鶴。綺麗過ぎて消えてしまいそうで亘は時々不安になる。
でも美鶴は雪の精なんかじゃない。雪の結晶なんかじゃない。溶ける事も消える事も絶対・・ないから。
「うん。美鶴・・」
もう一度返事を返すと亘は美鶴を抱きしめる手に力を込めた。美鶴は亘の髪をなでながらそっと微笑んだ。
安心した亘が自分の胸に頭をもたれさせるのを心地よく感じながらさて、この後どうしようかと考える。
あんな可愛いセリフをあんな可愛い顔して言った責任はとってもらわないと。
「わっ!え?」
美鶴は器用に亘の足元を自分の足ですくうと驚いて目を見開く亘の頭を支えながら、そっと傍のクッションに押し倒す。
亘は目を真ん丸くさせていたがどうやら美鶴の意図を感じ取ったらしく、サッと顔を青ざめさせた。
それを見ながら美鶴は慌てて自分を抑えようと伸ばしてきた亘の手を、逆にホールドするとその手にそっと口付けを落して微笑んだ。
今日はダメだ。今日はとめてやらない。何時もは亘の意思が第一尊重で美鶴がそれを無理強いする事はない。
だけど今日は。
消えないから。溶けないから。
触れ合うさきの暖かさをいま亘に誰よりも感じて欲しいから。自分を感じて欲しいから。確かめて欲しいから。
だから今日はダメだ。今日はとめない・・・
パサッ・・・
吐息が交わって熱が上がってぼやけていく思考の中で・・亘は美鶴の真っ白なセーターが脱ぎ捨てられるのを見てそっと・・・目を閉じた。
まっしろ ましろ
まっしろはなぁに? まっしろはゆーき
ゆーきはなぁに? ゆーきはとける とけるはなぁに? とけるはきえる
消えれば、緑が芽吹いて・・・春は、ほら。 もうすぐそこ・・・
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