わたしの愛しい子猫
わたしには最近お気に入りのコが二匹いるの。
一匹は真っ黒でサラサラの毛をした、とってもまん丸な目の可愛いコ。
もう一匹は薄茶色のフワフワした毛をして、星みたいにキラキラした目のキレイなコ。
二匹ともわたしのお気に入りの場所を毎日通るから、自然、よく見ることになるのよね。
それで見てたらね。
気づいちゃったことがあるのよね。
あのね。どうやらね。フワフワは、まん丸ちゃんが大好きなんだなってこと。
まん丸ちゃんは、とっても活発なんだけどちょっとあわてんぼうみたいで見てるととても危なっかしいの。
たぶん、だからだと思うけど歩くときフワフワは必ずいつもまん丸ちゃんに寄り添うように歩いて車が来たり、あぶない道になるとさりげなく必ず自分が外側に出るの。
この間なんか歩道橋をいきおい込んで走って来た、まん丸ちゃんが足を踏み外して階段から落っこちそうになった時。
フワフワは絶妙のタイミングで抱きとめてたわ。
それにフワフワはめったに嬉しそうな顔とかしないんだけど、まん丸ちゃんが寄って来て笑うとこれ以上ないくらいとってもキレイに自分も笑うの。
はじめてその笑顔を見たときあんまりキレイで、わたし、しばらく見とれちゃった。
いいなぁ。仲がいいのね。大好きなのね。
そう思ってわたしも嬉しくなってたの。
でも。
でもね。
何かちがうみたい。ちょっとちがうみたい。
わたし、気づいたの。
さいきん気づいたの。
フワフワがね。まん丸ちゃんを見てとてもとても嬉しそうな顔をする反面・・・とてもとても幸せそうな顔をする反面。
とてもとても・・・
せつなそうな顔をすることがあることを。
・・・・気づいちゃったの。
さりげなく傍に立ちながら。さりげなく傍に寄り添ってるように見えながら。
それが時々とてもつらそうなことに。
そのせつない瞳がほんとうは目の前のいとしい相手を
抱きしめたくて独り占めしたくて・・・たまらないんだって・・
ほんとうはほんとうは思ってることに。
・・・・気づいちゃったの。
でも、まん丸ちゃんは気づいてないの。
だれが見ても仲が良くて、二匹で嬉しそうに幸せそうにいつもいるけど・・・
フワフワの気持ちには気づいてないの。
なによりもなによりもせつない、そのフワフワの気持ちには・・・気づいてないの・・・
それを知っちゃったから。
可愛い可愛いわたしのお気に入りの二匹。
・・・だけどそれを知っちゃったから。
なんだかわたしもせつないの。
なんだかわたしも時々つらくなるの。
フワフワのキレイなキレイなそのせつない瞳から・・・目が離せないの。
「あのネコ、いつもじーっと美鶴見てるよね」
亘が指差す方に美鶴が顔を上げると、一匹の白いネコが通学路の途中にある一軒家の塀の上でじっとこちらを見ていた。
「そうなのか?」
「なに?気づいてなかったの?学校行く途中、いっつもここにいるネコだよ」
言われて美鶴はそのネコを改めて見る。あまり、動物に興味のある方ではないのでネコがじっと自分を見ることがあるかなんて正直、よくわからない。
ただ、なんとなく確かにそのネコは亘ではなく、自分の方に視線を注いでいるような感じはした。
「なんだろうね?やっぱりネコもキレイな相手が好きなのかな。美鶴に恋しちゃってるのかもしれないよ。
・・・美鶴はそういうの鈍感で、あんまり気づかないしさ」
笑いながらそう言って先を歩いていく亘に、美鶴はゆっくり視線を向けた。
そしてその後姿に問い掛ける。その言葉が亘に届いていないのをわかって・・・問い掛けた。
「・・・そういう亘はどうなんだ?」
すぐ傍にいたその白いネコが美鶴のその言葉にピクッと耳を震わせた。
そして、しっぽをユラユラ揺らしながらまるで微笑むような仕草で小首を傾けて、じっと美鶴を見つめていた。
美鶴が亘に追いついて、二人が学校に歩いていってその姿が見えなくなるまで。
・・・二人の後姿をただ、静かに。
ずっとずっと・・・見つめていた。
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