長編の方にはまだ出てこないのに宮原くん登場です。カッちゃんもがんばってます。ああもう! 可愛いなあこの子らは・・・はまりそうです。・・・美鶴が少しへタレ気味・・・ごごごめんなさい(汗)
亘の苦手
芦川美鶴は考えていた。
周りの大人たちさえ一目おくその頭脳でこれ以上ないくらい考えていた。
「三谷の苦手なもの?」
塾が終わり帰ろうとしていた宮原祐太郎は芦川美鶴に呼び止められ
唐突な質問を浴びせられた。
「なにそれ?どういう意味?食べ物の好き嫌いとかそういうこと?」
「そういうのじゃなくてその存在を見ただけで驚愕して思わず誰かに
抱きついてしまうほど、苦手って物だ。」
「・・・・・・・」なんだそれは。
「う~ん・・なんだろなぁ・・別に三谷、犬とかも苦手じゃないし・・
むしろ好きみたいだし・・・特にないんじゃないのか?」
宮原は首をひねった。「何でそんなこと知りたいんだ?」「ちょっとな・・・」
「そういうことなら小村に聞けば?一番仲いいんだし」
一番と言ったところで思いっきりにらまれたのは気のせいか?
「やっぱりそれしかないか・・」美鶴は気が進まないようだったがポツリとつぶやいて去っていった。
(何だったんだ?)この後自分に降りかかる災難を宮原はまだ知る由もない。
そう。美鶴は考えていた。この何日間もずっと。
亘の苦手なものが何かを。
先日失策にも亘にゴキブリが苦手なことがばれてしまった。
いや、それだけなら良かったのだ。
美鶴にとって大問題なのはその時亘に抱きついてしまったということだ。
これは美鶴のプライドを大きく傷つけた。
無意識とはいえ、抱いてすがりつく・・なんて。亘からされるならともかく(ハイ?)
美鶴にとって絶対あってはならないことだった。しかもそんな美鶴も大好きだ、とか
いわれて慰められてしまった。いや、それは嬉しかった。正直嬉しかった。思い切り嬉しかった。
が!それとこれとは別なのだ。
こうなったら取るべき道はひとつ。
亘の苦手なものを調べて自分と同じ目にあって貰うしかない。
つまり亘がその苦手なものに驚いてくれて自分に抱きついて(そこか?)くれればチャラだ!
多分宮原あたりがここにいたらどうしてそうなるんだ!?
と思い切り突っ込まれる事を自分は考えているのだと言うことに美鶴は気づいていなかった・・・
「亘の苦手なもの?」
「そうだ。知らないか?」
翌日しぶしぶながら美鶴は昼休みに小村を廊下に連れ出して同じ質問をしていた。
なんだかんだいっても幼稚園からの付き合いなのだ。
何か知ってはいるだろう。
「そんなのいっぱいあるぞ。」美鶴の目が光る。
「え~と、まず格ゲーは全然ダメだろ。それとダンジョン系も苦手だよな。
ホラー系もあんまり好きじゃないみたいだし。やっぱ俺もそうだけどRPGだよな。」
ピシッ!
美鶴の背後に効果音と共に雷が走る。
「使えない男だな・・・・」髪が逆立ってるように見えるのは目の錯覚か?
「誰がゲームの話をしてんだよっ!苦手なもの教えろっていってんだろ!」
思わず小村につかみかかり激を飛ばす美鶴に「な、何だよ。だから教えてンじゃんか」と、小村もわけがわからず必死だった。
そこに「何やってんだよ?二人とも」まさに運悪く宮原が通りかかった。
「あ、宮原~!助けてくれッ!芦川の奴訳わかんねーよぉ」小村は半泣きだ。
「なにやってんだ?落ち着けよ。芦川ッ!」
自ら火中に飛び込んでしまった宮原だった・・・
数十分の後。
「え~つまり・・・」
宮原が何とか美鶴を落ち着かせ、現状の把握をはじめた。
いざという時は一番冷静な少年と言える。
「自分が三谷に苦手な物がばれてしまってくやしいので、芦川も三谷の苦手が知りたいと・・・そういう訳だよな?」
「そんなら最初からそういやいいのに・・・」
激を飛ばされた小村がぶつくさ言う。
「ただ苦手なものがわかればいいわけじゃないんだ。亘にも俺と同じ目にあってもらう。」
決定事項ですか?それ?
「いや、同じ目にあってもらうったって・・・・」
「そうそう、誰かに抱きつくような苦手なものなんてあるかよ。」と、小村が言ったところでまた美鶴の髪が逆立ち始めたので宮原はあわててフォローする。
「とにかくそういった物が三谷にないか、俺と小村で聞いてみるから」
「必ず抱きつくほど苦手なものだ。それじゃなきゃ意味がないからな」
・・・・・・・・だから決定事項なんですか?それ?
宮原は思わず天を仰いだ。
「僕の苦手なもの?」
放課後、亘は宮原と小村に学校の中庭に呼び出されていた。
「ああ・・えーとなんていうか思わず飛び上がっちゃうほど苦手なものってある?」
「なにそれ?あ!なんかのクイズ?カッちゃん?」
「違う。」小村は思いっきりやる気がなかった。何で俺がこんなことしなきゃならないんだオーラ大発散である。それは宮原だってある意味同じだ。思わずため息をついてしまった。
「どうしたの?なんか二人とも変だよ」「いや、なんでもないよ。ところで本とにそーゆー苦手なものない?」
「う~ん・・・思いつかないなぁ・・」
「三谷怖いの苦手じゃなかった?幽霊とかさ。」
「だってほんとにいると思えないし。」「ああもう、埒あかないなぁ。なんかないのかよ。」
やる気がないとはいえ、事の収集を早くはかりたい小村も必死になってきた。
「そんなこといわれても・・・」
困った。このままでは美鶴に報告できない。何の情報も持っていかなかったらいまのあの美鶴のことだ。こっちにどんなとばっちりが来るかわからない。
「あ」
亘がつぶやいた。
「ひとつ・・・あるかな?・・・」
それを聞いた宮原と小村は思わず合わせ鏡でガッツポーズをとってしまった。
「ほんとか?」
「うん・・・飛び上がりはしないかもしれないけど・・・それみたら僕多分、嬉しいけど恥ずかしくって逃げ出しちゃうな・・きっと。」
嬉しい?恥ずかしい?それって苦手なものに当てはまる形容詞か?
「とにかくそれが苦手なのは間違いないんだよな?」
小村が尋ねる。
「うん。多分」「よっしゃー!亘それを俺たちに教えてくれっ」
「ええっ?いやだよ!」「なんでだよ。別にいいだろ」
あせる小村を宮原が押しとめる。
「三谷。俺たちだけの秘密にするからさ。ダメ?」この「俺たち」に美鶴が入っていることはもちろん伏せる。良心が痛い・・・
「うーん・・・でも・・」
「誰にも言わないからさ」「ただ聞きたいだけだからさ。」二人とも必死である。
「う・・・ん・・・」
「ああ!もうじれったいな!」
「「「わぁっ!!!」」」
「美、美鶴?」「「あ、芦川?」」
どこから現れたんだ?てか、いたのか?
「亘!その苦手な物ってのを俺に教えるんだ」美鶴が亘に迫る。
芦川・・・そんな直球勝負に出るんだったら俺たちの今までの苦労って一体・・・
宮原が思い切り脱力する。
「な、なんで美鶴がいきなり、て。話し聞いてたの?」
「いいからはやく教えろ!」
「や、やだよ。美鶴ひどいや。盗み聞きしてたの?」
「どうでもいいだろ。そんな事。早く教えろよ」
「やだっ!」亘が叫んだ。小村も宮原もびっくりして目を見張る。
「やだっ!美鶴にだけは絶対おしえないっ!」
顔を真っ赤にして亘は走り去ってしまった。
残されたのはボーゼンと再起不能になっている美鶴とそれをそのままにしていいのだろうかと途方にくれる宮原と小村だった。
「三谷」
その後再起不能になった美鶴を小村が送っていき、宮原が亘を探しに行った。
亘は正面玄関の端にちぢこまっていた。
「えーと・・なんかごめん。変なことになっちゃって・・」宮原が謝った。
「宮原が謝ることじゃないよ」
亘のとなりに腰掛ける。「でも怒ったんだろ?」
「違うよ。ただ・・・いきなり美鶴が現れるから、ちょっとびっくりしてあわてちゃったんだ。」
まあ確かにあれは俺もびっくりした。
「芦川に聞かれるのそんなに嫌だったのかい?」
「うん・・・」まだ頬を赤く染めて亘はうなずいた。
「・・・ひょっとして三谷の苦手なものって芦川に関係あるの?」
亘は更に赤くなった。「やっぱり聞いたら怒る?」
興味本位ではなく純粋に聞いてみたかった。
亘は首を振る。「ううん。宮原ならいいよ」
翌日。明らかに気まずそうに亘に声をかける美鶴に最初こそ少しすねた態度をとっていた亘も美鶴のこの世の終わりのような落ち込みを見かねて態度を軟化させていた。
中休み、美鶴の手を取ってサッカーをしようと引っ張っていく。
満開の亘の笑顔に美鶴の口元がそっとほころんでいる。
(なるほどなぁ・・)
その姿をそっと見ながら宮原は昨日の亘の言葉を思い出していた。
(苦手なのはね・・・美鶴の笑顔・・)
(だってさ・・美鶴って普段ほとんど笑わないじゃん。ちょっと微笑むくらいで。
だからさ、本とに嬉しそうに全開の笑顔をされたら・・きっとすごく僕も嬉しいんだけどどうしていいかわからない。なんだか恥ずかしくて、わーってなってその場からきっと逃げちゃうよ・・・)
抱きつかせるどころの話じゃない。亘のそんな苦手を聞かされたらどっちにしろ、美鶴の負けは決定だ。
とんだとばっちりだった。願わくば今後はあの二人の騒動に巻き込まれないよう日々天に祈ろう。
それでももし、美鶴が何か自分を巻き込んで無理難題を言うようだったらそのときは・・・
この切り札を使おう。
宮原は一人微笑んだ。
PR