まずは一本(ハァハァ・・息切れ)宮原くんとカッちゃんが出てくると止らなくなるのはなぜですか。いや、それよりかっこいい美鶴は何時になったら書けますか。題名は某バンドの曲をもじりました。
ライオンとストロベリーキャンディ
さて、皆様お立会い。
ここに一人の猛獣使いの男の子がおります。
彼が猛獣を操るのに使うものはたった一粒のキャンディだけ・・・
これは驚き。
では、お手並み拝見といきましょう・・・
その日亘たちのクラスは暗雲に包まれていた。
外は気持ちの良い秋晴れが広がり誰もが心浮き立つような
爽やかさを絵に描いたような一日だと言うのに。
亘たちのクラスは思い切りどす黒い雲に覆われていた・・・
原因はわかっていた。芦川美鶴である。
彼はその秀でた頭脳によって、また人を惹きつけずにはおかない
類まれなる美しい容姿でもって常に学校中の注目の人物だ。
やれ、芦川君がサッカーをやっていた。ピアニカ吹いてた。
今日は家庭科の実習で包丁もってただの、どうでもいいようなことまで
学校中の生徒の噂にのぼる。
そんな影響絶大の芦川美鶴が本日どうしたことか、学校にくるなり
MAXの不機嫌オーラを大発散させているのだ。
背後に暗黒の娘バルバローネをしたがえ、近づくものを飲み込みそうな勢いである。
クラスメイトたちはまさに針のむしろ・・・
蛇ににらまれたカエル・・・
ライオンに射竦められた小動物のようなものである。
そしてその美鶴の不機嫌の原因もわかっていた。
三谷亘である。
普段美鶴の側にいることを唯一許されている少年。
笑うというより、ほんの少し微笑むだけと言うのが正解のような
美鶴の笑顔を唯一見せてもらっている相手。
それが三谷亘だ。
事実亘のおかげでクラスメイトたちも美鶴と普通に接することが出来ている部分が
あったりするのでその存在は実はとてつもなく大きい。
のだが・・・・
なんと、亘は今日学校に来てから美鶴と口を聞かないどころか顔も見ない。
明らかに無視しているのだ。
つまり・・・・
(おまえら!喧嘩したのかぁぁぁ・・・・!!!)
その瞬間クラスの生徒は一人残らず顔面蒼白になった。
「・・・・わたるぅ~・・・」
最初にねを上げ亘に進言にいったのは、小村克美ことカッちゃんだった。
カッちゃんは亘と幼稚園からの付き合いだ。亘にとっても最も気のおけない相手でもある。
そんなわけで亘と美鶴の二人に何かあった場合、たいてい亘のほうがまだひととしてのお付き合いが可能なので(美鶴は何なんですか)一番仲のいい小村が担ぎ出されることが多い。
・・・・彼も無用の苦労をしょってると言える・・・
「何?カッちゃん」
「芦川と何あったんだよ?」美鶴の名を出しただけで亘はブスッと頬をふくらませた。
「べつに・・・」
「別にじゃないだろ?芦川のあの不機嫌オーラを見ろよ。もうクラス中が怯えてンだぜ。なんとかしてくれよ!」
「何で、僕が」
「あいつの機嫌が悪くなるのはたいていお前が原因じゃンか」
「そんなの知らないよ!」
実は亘も頑固だ。こうと決めたらてこでも動かないところがある。
カッちゃんはため息をついた。
「それで僕のところにきたのか・・・」
第二の犠牲者宮原祐太朗くん登場。「頼むからあの二人のゴタゴタを持ってこないでくれよ。」長いため息をついて宮原は言った。「そんなこといったって、後頼れるのは宮原だけなンだよ。クラスのみんなには小村!何とかしろって理不尽に責められるし・・・」
ううう・・・とカッちゃんはうなる。
宮原は今度は諦めのため息をついた。「・・・・わかったよ」
とにかく喧嘩の原因をつかんでどちらかを折れて謝らせて、何とか仲直りをさせるしかない。
そうなるとやはり取っ掛かりは亘の方だろう。
「三谷」中休みサッカーボールをもって外に出ようとした亘を宮原とカッちゃんが捕まえる。
「あ、宮原どうしたの?」
「ちょっと話があるんだ」グラウンドの端にある大きな木の根元に三人はしゃがみこんだ。
「三谷、単刀直入に言う。あのままの芦川は世の害悪だ。災厄だ。ハルマゲドンに近いものがある。このままじゃクラスのみんなが哀れすぎる。頼むから仲直りしてやってくれ。」
「な、なにいきなり・・・って。い、嫌だよ。今日は美鶴の顔も見たくないんだからっ」
「一体何が原因なんだ?」
「いいたくないっ!」亘は顔を真っ赤にして俯いた。
宮原は亘の手を握って至極まじめに話し始めた。
「三谷。いいか?この世の事象の全てには原因がある。その一つ一つを究明してきたからこそ今の人類の発展があるんだ。原因の究明なくして人間の進歩はありえないんだ」
「う、うん?ん?」いきなりの難しい話の展開に亘はついていけない。すかさず宮原は続けた。
「このままずーっと芦川と喧嘩してるの、本とはやだろ?」
「・・・・それは・・」「だったら早く何とかしようよ。俺たち、協力するから」「・・・・うん」
やりぃ!さすが宮原!口先だけなら美鶴もしのぐかもしれない。カッちゃんは心の中で手を叩いた。
「昨日美鶴の家に遊びにいったんだ」
家にはアヤもいて大喜びで迎えてくれたのだという。アヤは亘が大好きなのだ。
三人でゲームをしたり、おやつを食べたりして遊んでいたらアヤが不意にこういった。
「亘おにいちゃん、アヤと結婚してくれる?」亘は思わず飲んでいたジュースをこぼしそうになった。
「ええ?アヤちゃん、何どうしたの?急に」顔を赤くして亘はアタフタした。
「だってアヤ、亘お兄ちゃんが大好きなんだもん。毎日こうして一緒にいたいの」
「でもアヤちゃんは美鶴のお嫁さんになるんじゃなかったの?」
「おにいちゃんは兄妹だから結婚できないんだって。それにおにいちゃんもうお嫁さん決めてるって言うんだもん」すねたようにアヤが言う。
「え?そうなの?美鶴そんなこいるの?」亘は更にびっくりして聞いた。
「お前」
・・・・・・・・・・・・・・・・・ハイ?・・・・
「ええ?おにいちゃんたち結婚するの?」
美鶴はアヤに微笑んでいった。
「アヤ、俺がパパで亘がママ。そうしたら毎日一緒にいられるけど、どうだ?」
「うん!それなら嬉しい。とっても嬉しい」アヤは眼をキラキラさせた。
「まった!まった!まった!何いってんの?美鶴!そんなことできる訳ないじゃん!」思わず息を切らせて真っ赤な顔で亘はいった。「いいだろ。別に。アヤが一番喜ぶシチュエーションだ」悪びれもせず美鶴は言った。
「そういう問題じゃないだろ?アヤちゃん信じちゃったらどうするのさっ」「だから別にいいだろ」
「良くないだろ!大体なんで僕の方がママなのさ?お嫁さんなのさ?」
「だってお前の方が料理うまいし、洗濯だって掃除だって得意だろ」
「だからって・・・」
「亘・・・」まじめな顔をして美鶴は亘に近づいて言った。
「プロポーズしてほしいならちゃんと言うけど」
ブチッ!
「美鶴のバカァ~!!もうっ嫌いだ!」
そして今日に至る。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
宮原もカッちゃんもしばらくあきれて声が出せない。
え~と、こういうのをなんていうんだっけ。ほら、あれ、なんかすごくふさわしい言葉があった気がするんだけど。そうだ。バカップル・・・?
少し違うのかもしれないが今の二人はその言葉しか思いつかなかった。
こんなくだらない事が原因で俺たちは巻き込まれているのか・・・・
思わず脱力しないではいられなかったが宮原は立ち直りも早かった。
「わかった三谷!確かにそれは芦川が悪い。俺達からもいずれいっといてやる。でもとりあえず、この現状を何とかしてくれ。もうお前しかいないんだよ」
「僕から謝るの?」「頼む」宮原とカッちゃんは手を合わせて亘を拝んだ。
「うん。わかったよ・・」
ああはいったものの、亘は正直釈然としなかった。
自分が悪かったなら謝ることは少しも嫌じゃないのだがあれはどう考えても美鶴がいけない。
思い出すだけでも顔から火が出そうになる。でもとにかくこれ以上みんなに迷惑もかけられない。
(どうしようかな)面と向かって謝るのは嫌だった。何かをきっかけに何時も通りになれれば・・・
(あ)亘は自分のズボンのポケットの中にあるものを見つけた。
「大丈夫かな・・・」
「後は三谷に任せるしかないだろ」
ことのなり行きをクラス全員が見守っている。美鶴は相変わらずどす黒いオーラを放っていた。
クラスメイト達の顔つきはもう限界だ。
「美鶴」昼休みになって亘が美鶴を外に呼び出した。美鶴はおとなしく亘についていく。
宮原とカッちゃんが後を追い、物陰から様子をうかがう。美鶴と亘はしばらく気まずそうにお互いを見ていた。
「美鶴。目つぶって」ぶっきらぼうに亘が言った。
「目?」「そう。早く」まだ怒ってるらしい亘に観念して美鶴は素直に目を閉じた。
「口ちょっと開けて」また亘が注文した。「何する気だ?」「いいから!黙ってそうして」美鶴は仕方なく口を開けた。
ポンッ
「!?」「いいよ。目開けて」クスクス笑う亘がそこにいた。
口の中に放り込まれた存在に美鶴は思わず顔をしかめる。それは・・・
イチゴミルク味の甘い甘いストロベリーキャンディ・・・
「美鶴。甘いの苦手だろ。昨日の仕返しだよ」
少し拗ねたように頬を染めて亘は言った。亘の精一杯の仲直りの手段。
美鶴の口の中に甘い甘いイチゴミルクの味が広がっていく。
甘いものは苦手なのになぜか今はおいしく感じる。きっと亘の気持ちも入ってるからだ。
美鶴の暗黒オーラが見る見る解除されていく。ふっと美鶴の顔が和らぐと口元をほころばせた。
「やられたな。」
エへへッと亘は笑うと美鶴の手を取った。
「教室もどろ!」
嬉しそうにかけていく二人の姿を見て宮原が言った。
「まるで猛獣使いだね」
「へ?」
「あの芦川を一発で宥めちゃうんだからさ」
真似出来ないよな。まぁ、真似したくもないけど。
爽やかな秋晴れにふさわしい一日がやっと始まった。
さて、皆様。
猛獣使いが使うのは鞭でも火でもありません。
使うものはたった一粒の甘い甘いストロベリーキャンディだけ。
それで猛獣はすっかりおとなしくなりまする。
でもそれが出来る猛獣使いはこの世に一人しかおりません・・・
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