シリアス後のリハビリを兼ねまして・・・ギリギリいま頃ハロウィンネタ。そして今週後短編2本はあげます。どこまで老体に鞭打てるか見ててください・・・
カボチャ大王と僕
「もうすぐハロウィンだね。美鶴」
亘の家で二人で学校の課題をしていたら、唐突に亘は言った。
美鶴が課題から顔を上げる。およそこの世のイベントというものに一切の興味を持たない、あなた本とに小学5年生?の芦川美鶴さんは(ただし、亘とアヤの誕生日は別格)そういやそんな行事もあったなと思いかえす。道理で商店街やあちこちのスーパーの軒先に
カボチャやらモンスターやらをかたどった飾りがぶら下がってたわけだ。
「ああ、そうだな」ああいうのは亘が好きそうだなと、思いながら返事を返した。
「そっけない返事だなぁ」亘は口を尖らせる。
「なんだよ。まさか一緒にやろうとか言うのか?」「ピンポーン!」
予想した通りの亘のリアクションに美鶴は思わず苦笑する。
トリックオアトリート。お菓子くれなきゃイタズラするぞ!か。全くもう小さな子供じゃないだろうに。
「ね?いいでしょ。・・・ダメ?・・」上目遣いにおねだりするように小首をかしげる亘くん。
そんな仕草をされて断ることが出来るわけない小5男子芦川美鶴11歳。
「別にいいけど・・・」無意識に亘から目をそらしつつ美鶴は言った。
「ほんと?やったぁ!じゃあさ、ちゃんと叔母さんに言ってきてよ。その日は一晩中かかるんだから僕んちに泊まるとか言ってさ。ちゃんとOKもらってよ」
泊まる?一晩中?その単語自体にはときめくものを覚えながらも美鶴は疑問を持った。
「ちょっと待て!おまえ一晩中お菓子もらってまわるつもりか?」
亘が再び口を尖らせた。「何いってんの?美鶴。そんな子供っぽいことするわけないじゃん。お菓子なんか貰ってどうすんのさ」いや、どうすんのさって・・・・
「カボチャ大王だよ!」亘はきっぱりと言った。
「カボチャ畑で一晩中、カボチャ大王が現れるのを待つんだよ。決まってるじゃん!」
ああ・・・そういやそんな男の子いましたねぇ。ピーナッツみたいな顔をした犬の出てくる某有名アメリカンコミックにって・・・・おーい!!
「グレート・パンプキンね・・・なーるほどって・・・無理!絶対無理!今度ばかりは芦川に何を言われようが俺はことわーるっ!!」
たまたま持っていた図書館から借りた本を顔面にかざし、防波堤を張りながら宮原は叫んだ。
「オレはけっこう面白そうだと思うけどな・・・」その横でポツリとカッちゃんは言った。
「小村っ!・・・」のるなよ。頼むから。
中休み。学校の中庭。宮原とカッちゃんは美鶴につかまっていた。
「だって、要するにカボチャ大王のカッコして亘の前に現れりゃいいだけだろ?面白そうじゃん」
美鶴がカッちゃんの肩をぽんと叩いて呟いた。
「小村。おまえいい奴だな。たまには」「何だよ。それ」
「じゃあ、君らでやってくれ。僕は遠慮します」そそくさと去ろうとする宮原を美鶴がガッチリガードする。
「ダメだ。小村一人でもし不測の事態があったらどうするんだ」
このメンバーで不測の事態が起きなかった事がありましょうか。
「信じきってる亘の夢を壊すのか?」「もともと空想のキャラクターだろっ!いまどきサンタを信じてるって言う方がまだマシじゃないか。なんだって三谷はそんなの信じてるんだよ」
「いいだろ。亘らしくて可愛いんだから」
「知るかー!」「お兄ちゃん方。どうしたの?」
にらみ合いながらジタバタしてるところに天使の声が降ってきた。
「ア、アヤちゃん・・・」
「小村くん、宮原くんこんにちは」ニコッと微笑むアヤの笑顔はまさに天使の笑顔。
ちなみにアヤが「お兄ちゃん」をつけて呼ぶのは亘だけだ。彼女いわく美鶴と同レベルで大好きな亘には「お兄ちゃん」をつけなければいけないんだそう。
「ケンカしてるの・・・?」ちょっぴり険悪ムードの宮原と美鶴を見て心配そうに尋ねる。
「ち、違うよ」宮原が慌てて首を振る。宮原は弟や妹が多いせいか、基本的に自分より小さな子にとても弱い。
学校でも低学年の子達の面倒を率先してみてるほどだ。
「ちょっとな・・・お兄ちゃん、宮原に頼み事があるんだけど・・・無理って断られたんだ」
思い切り表情にかげりをつけて悲しそうな声で美鶴は言った。
「そうなの・・?宮原くん、お兄ちゃん嫌いなの?」アヤもまた思い切り悲しそうな声を出し、大きな瞳を潤ませて宮原を見つめる。
「い、いやそんなんじゃなくて・・・」そして思い切りうろたえ始める宮原くん。
「お兄ちゃんのお願い聞いてあげて・・・アヤからも・・お願い!」胸の前で手を組み瞳をウルウルさせてお願いされたら断る事なんか出来るわけない小5男子宮原祐太朗11歳。
「わかったよ・・・」宮原はギブアップせざるを得なかった。
「ありがとう!宮原くん」嬉しそうにアヤが抱きついてきた。宮原は思わず真っ赤になる。
小1女子にときめいてていいのか?そんな宮原の背後から美鶴の視線が針のように突き刺さっていた。
「こっちの方にあるんだ。カボチャ畑」
ハロウィン当日の夕方。毛布やらシートやらおやつやらけっこうな荷物を持ってきてニコニコしながら亘は言った。
目当てのカボチャ畑は割と家から近かった。自転車を飛ばして20分くらいの郊外にあった。
「良くこんなとこ見つけたな」
畑の端にシートをひきながら美鶴は感心する。ハロウィンとなればあちこちに飾られる大きなオレンジ色のカボチャが辺りにゴロゴロとなっていた。
「前にも来た事あるんだ」魔法瓶から暖かいココアをついで美鶴に渡しながら亘は言った。
「前にも?」「うん」「亘・・・まさか毎年来てるのか?」「まさか!ずいぶん久し振りだよ。うんとちっちゃい頃良く来てたんだ」少し寂しそうに笑いながら亘はこたえた。
「小さい頃?」「・・・・うん」
10月ともなれば日が暮れるのは早い。星が瞬き始めるのを二人で座ってみながら、お互いの膝に毛布をかける。
「現れるかな・・・カボチャ大王?」
「・・・どうだろうな」少し寒くなってきて震える亘に自分の毛布を広げてかけてやりながら美鶴は問い掛ける。
「どうしてそんなに会いたいんだ?」「え・・・?」
「理由があるんだろ。サンタクロースと違ってプレゼントくれる訳でなし。わざわざこんな畑で一晩中待ってでも会いたい何か理由があるんじゃないのか?」
毛布をかけた膝を抱えて身じろぎしながら亘はポツリと話しはじめる。「・・・・うん」「何?」
「お父さんがね・・・」その単語に美鶴がそっと目を細める。
「お父さんが教えてくれたんだ・・・僕がちっちゃい頃。ハロウィンにはカボチャ畑にカボチャ大王が現れるんだぞって・・・」
微笑みながら亘は続ける。
「それで僕が会いたい会いたいってあんまり言うもんだから・・・お父さんここ見つけてきたんだ」
そして幼い亘を連れて来て一緒に待ってくれたのだ。カボチャ大王に会いたいという亘に付き合って。でも幼い亘はいつも何時の間にか父のその腕の中で眠ってしまった・・・でもいつしか父の仕事が忙しくなるに連れ、それもほとんど出来なくなった。
そして・・・・いまは・・・もう・・
「・・・・・・」美鶴は黙って聞いていた。静かに亘の声を聞いていた。「あ、でもね」
「一度だけみた事あるんだよ!」弾けたように亘は言った。
「僕、寝ちゃってたんだけどふっと目が覚めて前を見るといたんだよ!カボチャ大王!」次には亘は小さなため息を漏らしながら呟いた。
「でもその時お父さん側にいなかったな・・・今思えば、あれきっとお父さんだったんだよね・・・」寂しそうに笑いながら・・・亘は続ける。
「そうだよね・・・いるわけないよね。カボチャ大王なんてさ。ごめん、美鶴つき合わせちゃって・・・」
抱えた膝に顔を埋めながら亘はほんの少し震えていた。泣かないよ。小さな肩がそう言ってる気がした。美鶴はその肩をそっと抱き寄せる。
「亘・・・」その髪にそっと口付けながら美鶴が囁く。
「俺はずっとそばにいるよ。亘からはなれないよ」亘はゆっくり顔を上げた。
「俺がずっと側にいる。これから毎年だってカボチャ畑に付き合ってやる。・・・だから・・泣くな」
ほんの少しだけ涙が滲んでいる亘の瞳に美鶴はゆっくり唇を近づけた。両手を背に回してしっかりと抱きしめる。亘が目を見開く。美鶴の顔がどんどん近づいて来て・・・。「みつ・・・」
「トリックオアトリート!!」
叫び声と同時に二人の目の前に顔の描かれた大きなオレンジ色のカボチャが現れる。白いマントを羽織って手には星のついた杖を持っていた。
「わあっ!!え?・・・え?カ、カボチャ大王?え?しかも二人?」
カボチャ大王は二人に飛び掛って来た。というより美鶴に飛び掛ってきた。
「芦川っ!人を散々待たせておいて自分はなにやってんだよ!」
「自分ひとりいい思いしようとするなっ!」
(このセリフそれぞれどちらが宮原でどちらがカッちゃんかは皆様の想像にお任せします。)
「おまえら・・・いいとこで・・・合図してから出て来いっていっただろ!」聞き捨てならない美鶴のセリフも耳に入らず亘はいま一体何が起こり始めたのか皆目わからなくて、三つ巴になってる3人をただオロオロみていたが、ふと顔を上げると畑の向こうに何かが見えた。
(あれ・・・?)
人影だ。子供ではない大きな・・・暗くて顔は良く見えない。でもあれは・・・そう、もしかして・・・
亘は走り出した。人影めがけて。ギャーギャーやってた3人の動きが止まる。「亘っ?」
走り寄ったときにはすでに人影は消えていた。月明かりだけがカボチャ畑を照らしている。一番大きいカボチャの側に何かが置いてあった。
(あ・・・・)
お菓子とともに小さな小さなカードがそえられていた。そこに書かれていた言葉・・・それは・・
Happy Halloween 亘
いつも君のそばに幸福があるように
「亘・・・」美鶴がそばに来ていた。すでにカボチャ大王の衣装がめちゃくちゃになって素顔を見せている宮原とカッちゃんも駆けつける。
「三谷・・・どうしたんだよ。大丈夫か?」カードを握り締めながら俯いている亘を心配そうに覗き込む。亘は顔を上げる。
「宮原・・・カッちゃんも・・・二人こそどうしたの・・・そのかっこう・・もしかして・・」
「あ、い、いやこれは・・・その、あ、芦川が・・・」「美鶴?」
バツの悪そうな顔をして美鶴はそっぽを向いている。3人の顔を亘は交互に見比べながら瞬時に今日の事を理解した。
そして両手を大きく広げて3人に思い切り抱きついた。涙を少し浮かべながらそれでも眩しいくらいの笑顔で。
「ありがとう!美鶴も宮原もカッちゃんも大、大、大好きだよ!」
月が優しく照らすオレンジ色のカボチャ畑。今夜は顔を真っ赤にしている小5男子が3人いた。
Happy Halloween! Happy Halloween!
どうぞ君たちが何時までも幸福でいられますように・・・
カボチャ大王は・・・いつも君たちを見守ってるよ・・・
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