そんでもってまずはバレンタインネタ第一弾!予告の宮アヤです。アヤちゃん!きゅんきゅん!・・・このタイトルに反応したあなた様は私と華の同年代。美鶴さん壊れ気味ご注意!
君に胸きゅん!
その日はおそらく全国の可憐な乙女たちがこぞってその胸の鼓動を高鳴らせる日。
震える指を進まない足を叱咤させながら愛しいあの人の元へ。
自分の想いという甘い媚薬を含ませた世界にひとつしかない神秘のお菓子。チョコレートを持って。
「そんな殊勝な想いでチョコをくれる女子が今時いるもんか。たいていはホワイトデーの3倍返し狙いに決まってる」
溢れるほどの目の前のチョコにうっとうしそうなため息をつきながら美鶴は毒づいた。
「また!美鶴は・・どうして素直に受け取ってあげないのさ?」
美鶴の代わりに大量のチョコを紙袋に詰めながら亘はいった。男に生まれたからには誰だって一度はバレンタインにたくさんのチョコを貰ってみたいに決まってる。それをやすやすと実現してしまいながら不平を漏らす美鶴に亘はあきれていた。
「・・・僕なんかこんなに貰った事ないんだからな。お母さんだろ?美鶴の叔母さんだろ?アヤちゃん・・それで終わり。しかもぜーんぶ義理・・・」
「アヤは義理じゃないだろ?」
「そりゃあ・・・アヤちゃんは優しいし、僕を本とのお兄ちゃんみたいに慕ってくれてるから・・・でも」
亘はハアアアーッと大きなため息をついた。
「どうやら今年は本命がいるみたいだよ。・・・なんかそれ聞いて僕もちょっとショックでさ」
途端美鶴の背景に思い切り暗雲が立ち込める。雷鳴が今にも轟きそうにゴロゴロと音を立て始めた。
亘ははっとして慌てて口をつぐんだ。しまったぁ!!!
「なんだって?・・・」
その瞬間ピカッと光る雷を亘は見た。
白い息を吐きながらまるで少女漫画のひとコマのように胸にチョコを抱き、かすかに頬を染めて木の陰でそっと誰かを待つ(・・・って今時そんなシーンないですかい?作者の知識は軽く20年は古い。涙)
美少女アヤちゃんはおそらく今現在そこを通りかかるすべての男子を即効フォールインラブさせていた。
少し先にある中学校からは下校する生徒が次々出て来ている。そこから来る男子全員がアヤを見つけて淡い希望とかすかな望みを抱いて彼女の前を通るのだが次の瞬間希望は絶望に変わり、くそぅ。あのまれに見る美少女からチョコを貰えるなんて果報者はどこのどいつだ!!という怨念パワーを涙と共に巻き散らかして去っていくのであった。
ちなみにアヤちゃんは現在小学4年生。という事は美鶴と亘は中学2年生。花の10歳と14歳。
でもここは亘達のいる中学ではありません。地元からちょっと離れた私立の中学。通っている子達はみな一様に秀才ぞろいで有名な学校。・・・ではそこに通っている彼はと言うと?・・・
「あれ?」
アヤのその姿を見つけて一度ぴたりと足を止め、次の瞬間小走りに近づいていく人物がいた。それは・・・そう彼。
「宮原くん!」
嬉しそうに頬を真っ赤にさせてアヤはやってきた宮原を見上げた。
「やっぱりアヤちゃん。・・どうしたの一人?そんなに寒そうにして・・誰かを待ってたの?」
宮原は自分がしていたマフラーを慌ててはずしてアヤにかけてやる。
「手も冷え切ってるじゃないか」
そう言って包みを持ってない空いてる方の手をそっととって自分の手で暖める。
なんせ妹、弟多いから年下の子を見ると放って置けない。多分廻りに人がいなければ間違いなく寒がるアヤを自分のコートの中に包んで暖めていたであろう。(・・・しかしそれは20年前の少女漫画ファンにとっては正しい行為だ。宮原くん!!)
「う、うん。あの・・宮原くんを待ってたの・・」
「俺?」
消え入りそうな小さな声でいうアヤを宮原はびっくりした顔で見た。
「わざわざこんなとこまで来て?・・」
「うん・・・あのっ・・あのね。これ・・・」
「え・・・?」
胸に抱いていた小さな包みを宮原に渡そうと顔を真っ赤にしてぎゅっと目を瞑る。そして差し出そうとした瞬間。
ガガガッ!!ピシャーンッッ!!
二人のいたすぐ隣の木に閃光が走ったと思ったら大きな音を立ててその木がかすかな炎と共に燃えながら崩れ落ちた。
宮原とアヤのいた反対のほうへ木は倒れたとはいえ一体全体何事が起きたのかとあぜんぼうぜんとする二人に悪魔の声が降りかかる。
「・・・宮原・・・」
「芦川っ?!」
「お兄ちゃん?!」
二人同時に振り返るとそこには息を切らせながら必死の形相でこちらを睨んでいる美鶴がいた。
その後ろに遅れて走ってくる亘が見える。
「み、宮原ー!!無事?・・・ごめん!アヤちゃん!美鶴に知られちゃった。ごめんっっ!!」
亘は申し訳なさそうに手を振りながら必死に叫ぶ。
美鶴はすばやくアヤに近づくと肩をつかんで自分のほうに引き寄せた。そして宮原のほうを向くと暗黒オーラ大発散で告げる。
「宮原・・アヤに手を出そうとはいい根性してるな」
「お兄ちゃん!何言ってるの?!違うよ。宮原くんは何にもしてないよ。・・ア、アヤがあの・・宮原くんにチョコあげたくて・・」
そこで頬を染めたアヤを見て美鶴は顔を引きつらせ、宮原はびっくりしながらも同じく少し頬を染め、亘はわぁ、どうしよう。こういうのを三つ巴って言うのかな・・と冷や汗をたらしておりました。
「ダメだっ!俺は許さないからなっ!」」
美鶴が叫んだ。だが言ってる台詞がすでに兄というよりろくでもない男に娘はやれるかの父親状態。
「美鶴っ!!」
気持ちはわからなくはないがアヤが可哀想じゃないか・・・と亘が口を出そうとするとアヤが大きな声で叫んだ。
「お兄ちゃんがダメって言っても関係ないもの!アヤが宮原くんにチョコあげたいの!宮原くんが好きなの!!」
やはり恋する少女は強かった。
その台詞を聞いて美鶴はすっかりかっきりカチンコチンのフリーズ状態。
そしてアヤは不意をついて美鶴の手から逃げ出すと宮原のほうへ駆けて行きその手をとる。「宮原くん!」
宮原はハッとすると取られたその手を握り返し一緒に走り出す。そう、それはまるで手に手を取っての愛の逃避行。
「あ、アヤ!!」
アヤから振り切られると思わなかった美鶴は明らかに反応するのが遅れた。
亘はそれを見ながら今だ!!とばかりに素早く美鶴に飛びついた。「美鶴っっ!!」
滅多にというより普段はほとんどない亘くんからのハグ状態に美鶴しばし混乱。先ほどとは別の意味で再びフリーズ状態。
亘は優しく背中から美鶴を抱きしめながらそっと言った。
「うん・・寂しいけどさ・・・宮原ならいいじゃん。美鶴だって本とはそう思ってるんだろ?・・・ね?」
吐息のような亘の口調に美鶴のこわばっていた体からすっと力が抜ける。
そして自分の首に回されている亘の両の手に自分の手をそっと伸ばして優しく触れた。
「・・・今日だけ特別だ」
美鶴のその言葉に亘は微笑んだ。そして抱きしめる手に更に力を込めて囁いた。
「じゃあ・・・今日は僕が妹になってあげるよ。・・・お兄ちゃん!」
あっけらかんと言う亘はその言葉の破壊力をまるでわかっていなかった。美鶴がみたび固まったかと思うと次の瞬間素早く体を反転させそして亘の手を掴み、自分のほうに思い切り引き寄せる。
「わぁっ?!」
「・・・本当だな?」
「え?う、うん。・・・え?美鶴?ちょ・・ちょっと!えええーっっ?」
亘の手を引き光速の勢いで美鶴は何処かに向かい始める。何処かとは果たして何処なのか?
それは哀れな犠牲者亘くんと棚からぼた餅を手にした美鶴さんのみぞ知る。
「・・・はい」
一方無事美鶴の魔の手から逃れたアヤと宮原は作者の趣味で人気のない公園のベンチに座っております。
アヤから小さな包みを渡された宮原は微笑みながらそれを受け取った。
「ありがとう。アヤちゃん。・・・嬉しいよ」
少し照れながら、でも宮原はアヤをまっすぐ見つめて答えた。アヤは大きく目を見開くとその次にまるで春に咲く桜のような満開の微笑を浮かべた。
自分はいまこの笑顔を見られるだけおそらく世界で一番果報者だろうなぁと宮原は思う。
そしてふと自分たちの座るベンチのすぐ横に立っている木の枝を見上げる。
「アヤちゃん、この木。桜なんだよ。知ってる?」
突然の話題にアヤはきょとんとした顔をして首を横に振った。宮原は立ち上がりそっとアヤの手を取った。
「春になったら桜が咲いて・・・すごくきれいなんだ。その・・・一緒に見に行こうか?」
満開の笑顔が・・・自分のすぐ近くでまた咲いて・・・
そっとそっと手をつないでゆっくりゆっくり歩く二人の春はもうあと少し・・・
後日談。
バレンタインの翌日。アヤによく似合いそうな(スカート)・・でもどう考えても今のアヤには大きすぎる服が美鶴の部屋から発見されて美鶴の叔母は思い切り頭に?マークを飛ばして、その日以来間違っても美鶴のことを「お兄ちゃん」などと呼ぶものかと固く誓っている亘がいて、そして生徒手帳に密かに何かの写真を忍ばせてそれを眺めてはほくそえんでる美鶴がいたとのことです。
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