初恋初花甘語り─ハツコイハツハナアマカタリ─
「キーワードは『お前は俺の虜だ』」
もうすぐ2月の乙女にとっての甘い思い出作りデーに続く、男子にとっての──それが両思いならば返し甲斐もありますが、そうでなかったら只の金銭的負担だよ3倍返しデー──が、近づいていた。
その月に入ってから、亘はいつになく落ち着かなくなっていた。考え込んではため息。ため息をついてはまた、考え込む。同年代の周りの高校生男子も一様に、その日を迎えるにあたり思い切り落ち着かない日々を送ってはいたが、亘のそれは明らかにそういった下手なお返しは出来ないぞ。ヘンなものやったら大変だ困った、的な一般の男子とは違っていた。
それはそうだろう。なんせ贈る相手が女子ではなく、同じ高校生男子なのだから。
「は?」
「だ、だから・・・えーと、美鶴は甘いの嫌いじゃん!だからクッキーとかキャンディとかあげたってきっと喜んでくんないし。何、あげたら喜ぶかわかんなくて・・・宮原ならなんかいいアイディアあるかなと思ったから・・・」
この時期、この地域にしては珍しく大雪が降ってそれがいっせいに溶けた途端、待ち構えていたかのように桜の木に小さな蕾が芽吹き始めたそんなある日の事だった。
宮原は休日の午後、亘に呼び出されて喫茶店で向かい合ってコーヒーを飲んでいた。
「つまりホワイトデーに芦川に、何あげたらいいかって聞いてるの?」
「う、うん・・」
小学校5年の頃から高校生になるまで、かれこれお互いの付き合いも長くなって来た。その間宮原祐太郎は何度、三谷亘と芦川美鶴のこの魔の(比重、ほとんど美鶴より)ペアに悩まされて来た事か。
おかげでこの二人に関する事では、ちょっとの事では動じない耐久心が身に付いてしまっている。そんなもの生涯必要としたくも無かったのだが。
宮原は軽く息をついて、目の前で顔を赤くしながらそれでも目は真剣な亘を見ると──まぁ、この程度の内容なら普通の高校生男子がする内容と、さして変わらないし。問題なのは相手が芦川美鶴だということなだけで(それが一番大きな問題でもあるんだけどな)──言った。
「何だっていいんじゃないか?芦川なら三谷から貰える物なら何だって喜ぶだろ?」
「そりゃ・・ちゃんと受け取ってはくれるけどさ。だけど甘いもの本当は苦手なくせに無理して食べてもらっても嬉しくないよ。せっかくのホワイトデーなのに。
・・・・・バレンタインのチョコならなぁ。ビターなチョコとかあるから、まだいいのに。なんでホワイトデーはクッキーとかマシュマロとかなんだろ?甘さ、押さえ様が無いよ」
いや、それよりも何よりも、そもそも男子高校生が男子高校生にホワイトデーに贈り物なんかしませんから!
なぜにバレンタインではなく、ホワイトデーに贈るのか以前宮原が亘に問うたら、「バレンタインは女の子が贈り物をする日じゃん!僕、男だよ?」という、まことに亘らしいと言うべきかのピントのずれた答えが帰ってきて、脱力した覚えがある。
まあ、とにもかくにも本人は真面目に悩んでいるのだから、宮原は気づかれないように今度はため息をつくとこう言ってみた。
「じゃあ、お菓子にこだわらなくたっていいだろ?要は気持ちなんだから。別のものにしてみたら?」
「別のものって?」
「芦川が一番喜ぶものにしてやればいいだろ」
「一番喜ぶもの?美鶴が?・・・・なんだろ?」
コーヒーを飲む手を止めて真剣に悩み始めた亘を見て、宮原はおや?と思う。
美鶴が一番『なにで』喜ぶかなんて、二人を知る者にとっては周知の事実なのに当の本人は分かってないようだ。
宮原はおかしくなって、困ったもんだ。これなら芦川も苦労するよなと半ば同情、半ば好きにやってろのからかい気分で、今度は笑いながらちょっと意味ありげな視線を向けてこう言った。
「・・・だから、たまには三谷の方から芦川を誘って(微妙強調)やったら?」
「誘う?誘うって何に?どこに?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あ!遊びに誘うって事?・・・でも、美鶴あんまり外出したがらないんだよね。遊園地だってゲーセンだって僕が無理やり連れ出して付きあわせてるような感じだし・・・どうかなぁ。あんまり喜ばないんじゃないかな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・オーイ。
宮原は何となく改めて居住まいを正すと、真面目に問い掛けてしまった。
「あのさ三谷。普通、男子高校生が特別な日に『誘われて』嬉しい事って、そう言う事じゃないと思うんだけど・・・?」
「へ?じゃあ、どういう事?」
大きな黒い目を大きく見開いてキョトンとして。
『本当にわかりません!』オーラを大発散してくる三谷亘くんに宮原祐太郎くん、いくら相手が魔の芦川美鶴といえども、同じ男子として思わず多いに大同情。
・・・・・うわあ。芦川美鶴さん。これはすでに苦労というより、常に目の前にものすごいご馳走をちらつかせられてるのに、まだ食べちゃダメ!のお預けを食らってる地獄状態ではありませんか──?!
宮原は額に手を当ててなにやらしばらく考え込んでいたが、つと顔を上げるとキラリと瞳を光らせた。
「・・・三谷、本当に芦川の事喜ばせたい?」
「え?うん。そりゃあ・・」
宮原は思った。
正直、美鶴には迷惑と言う言葉を10倍返しにしてやりたいほど、今まで理不尽な扱いを受けて来たが、それを一旦、心の棚の真中に(何か微妙です。宮原くん)おいてやってもいいくらい今の美鶴の状況には慈悲の心を浮かべる余地がある。
・・・・そうだよな。たまにはな。少しくらい、芦川を喜ばせることしてやってもいいかもしれない。
それに覚えたばかりの〈アレ〉を試してみるのにもちょうどいいし・・・。
宮原は亘に気づかれないようにかすかに微笑んだ。そして人差し指を立てて亘に向けると、秘密の魔法をかける魔術師のように呟いた。
「じゃあ、これから俺の言うことを素直に聞くんだ」
ホワイトデー当日。おりしもその日はサクラの開花予想がされるほどの暖かい日だった。
次の日から週末で休みという事もあり、亘は朝から今日は美鶴のうちに行くからね!と、張り切っていた。美鶴は苦笑いをしながら、今年もまた美鶴にとっては、例の甘味辛抱大会がやってきたな、と少しため息をつく。いつも亘は気を使ってかなり甘さを抑えた菓子を用意するのだが、それでも苦手なものは苦手で正直、少々気は重い。
放課後。楽しそうに小走りにどんどん先に行く亘を見ながら、美鶴はちょっとだけ肩をすくめた。
・・・・と、その時ポケットの中のケータイが鳴った。
「もしもし。・・・なんだ。宮原か」
『なんだはご挨拶だな。芦川、三谷は一緒?』
「俺んち来るって、先に走って行った。なんだよ?」
『じゃあ、今そこにはいないんだな?よし!いいか芦川、良く聞くんだ。俺がお前になんかしてやるのなんて、多分生涯通じて今回だけだから心して聞けよ!』
「なんだ?その恩着せがましいセリフは?」
『いいから聞けよ!あのな・・・』
ケータイを耳に当てたまま、美鶴は立ち止まる。口を挟まず黙って宮原の言葉を聞いていた美鶴の瞳が、次第にポカンと大きく見開かれた。
『いいか?くれぐれもキーワードを間違えるなよ?』
「おい、待て!今の話本当なのか・・・?」
『信じようが信じまいが勝手だけどな。俺もそんなに自信があるわけじゃないし。まぁ、なんなら試すだけ試してみれば?うまくいけばめっけもんだろ?じゃあな!』
「おい!宮原・・・!」
ツーツー・・・・。
携帯の切れた音を聞きながら、美鶴はしばしその場に立ち竦んでいた。
「何か美鶴、帰ってきてからヘンだね?どしたのさ?」
勝手知ったる美鶴のうちで二人分の紅茶をいれて、美鶴の部屋に戻って来た亘はなんだかさっきから落ちつかなそうにしている美鶴に、不思議そうに問い掛けた。
「いや、別に・・」
「ふーん?それより、アヤちゃんと叔母さんは今日いないの?」
「ああ。二人で街に行って、ホテルのホワイトデーディナーだかを食べてくるから、遅くなるとか言ってた」
「あ、そうなんだ?そっかー・・・一応二人の分も作ってきたんだけど。まあ、仕方ないね。
・・・・えーと、じゃあ。美鶴、ハイ!」
少し照れくさそうにそう言いながら、亘は小さな包みを差し出した。片手に乗せられたそれを開くと、中には小さな花びらを象ったこげ茶色のクッキーが入っていた。
「・・・あんまり甘くないように、カカオ味にしてみたんだけどどうかな・・・」
心配そうにそう言う亘に、美鶴は静かに微笑むとひとつを口に放り込む。
「美味しい」
「・・・本とに?」
「当たり前だろ」
そう言って笑いながら、クシャッと自分の頭を撫でてくる美鶴に亘も微笑んだ。
「よかったー!・・・どうしようかずい分悩んだんだけど、宮原も気持ちがあれば何だっていいんだからって言うから、結局クッキーにしたんだよね」
「・・・宮原に会ったのか?」
「うん。先週ね」
「・・・何か、されなかったか?」
「は?されるって?何?なんのこと?」
「いや、なんでもない」
美鶴はごまかすようにそう言うと紅茶に手を伸ばし口にしながら、さっきかかって来た宮原の電話の内容を思い出す。
・・・宮原の奴、亘と会ってたんならさっき言ってた事は本当なのか?どう考えたってからかわれているとしか思えない話だったけど・・。
美鶴は亘をチラリと見る。でもまあ、試すだけなら・・・試してみても・・・。
「これさ。サクラの花の形にしてみたんだ。早くサクラ咲かないかな。そう言えば今日、開花予想してたってね。ねえ美鶴、また一緒に花見に行こうよ?」
自分もクッキーをつまみながら、無邪気にそう語りかけてくる亘の横に美鶴はツイ、と近づくと肩に手を掛け、グイッといきなり自分の方に引き寄せた。突然の行為に驚き、固まって目をパチクリさせている亘の耳元に、美鶴はそっと顔を近づけると小さく、甘く囁いた。
「───亘は俺の・・・・虜だ」
ゆっくりと耳元から顔を離して、美鶴は亘の顔を覗き込む。亘は急に言われた言葉を理解できなかったのか、キョトンとした表情でポカンと美鶴を凝視していた。そして数秒後───。
「バ・・・」
「亘・・・?」
「バ、バカバカバカーーー!!い、いきなり、なんだよ?何恥かしいこと言ってんだよーー?」
見る見る顔を真っ赤にしたかと思うと手をパタパタやりながら、ポカポカ美鶴を叩いて来た。
美鶴は慌てて亘の手を取り押さえて言った。
「ごめん!冗談だ」
「じ、冗談って・・・冗談って!冗談じゃないだろっ?!ぼ、僕がそんな風に言われるのすごく苦手だって知ってるくせにーー!!」
そう言いながら、尚も美鶴に抗議してくる亘はいつも通りの亘で、どこも変わった所はない。
美鶴は亘の手を押さえつけながら大きくため息をつくと、小さく舌打ちした。
宮原の奴・・・!やっぱりからかったな?!
何が何が・・・・・─────亘に催眠術をかけた、だ───!
『かけた術はキーワードを言う事によって反応するんだ。でもそのキーワードは芦川以外の人間が言っても無駄。反応するのはあくまで芦川の声だけだから。そしてそのキーワードは・・・』
〈おまえは俺の虜だ〉
そのキーワードを耳にする事で亘に掛けた催眠術が反応する。そうしてうまくいけば・・・。
『三谷から初めてのお誘いがあるはずだよ。きっと』
最後、ほくそえんだようにそう言った宮原のそのあまりに甘い内容に、美鶴は半信半疑ながらついつい、その言葉を試してみないではいられなかったのだ。
美鶴は心の中で宮原にリベンジを誓うと、もう一度亘に謝ろうと顔を上げる。すると・・・。
亘が顔を俯けて、いきなり大人しくなっていた。そして押さえられていた手を自分で振り解くと、何も言わずに立ち上がり向こうを向いてしまった。
「ゴメン、亘。そんなに怒ったのか?」
亘は後ろを向いたまま、フルフルと首を振ったがそれでも何も言わない。せっかく自分のためにクッキーを焼いて持ってきてくれたのに、こんな事でケンカなんかしたくない。美鶴も立ち上がって亘の傍に寄リ、手を伸ばした。が、亘はそれより早くふらりと動くとそのままベッドの方に行き、ポスン!とベッドに座り込んだ。
「亘・・・?」
手を伸ばしたまま、美鶴がいぶかしげに問い掛ける。まだ顔を俯けたままなので亘がどんな表情をしているかわからない。どうしようかと思っていたら亘が小さな声で呟いた。
「こっち来て・・・」
「え?」
「こっち・・こっち来て、隣に座って・・・」
美鶴は言われるまま、亘の隣に腰掛ける。でも亘は尚も俯いたままだ。
まだ怒ってるのだろうか。美鶴が困ったように亘に問いかけようとすると。
「ど、すれば・・・いいの?」
「え?」
「自分で脱いだ方がいい・・・の?それとも脱がせて貰った方がいいの・・・?」
「は?」
亘がゆっくり顔を上げて、美鶴の方を向いた。震える手でシャツの胸元を押さえて、泣きそうな瞳を潤ませ頬を上気させながらかすかな声で呟いた。
「だって初めてだから・・・わかんない、よ・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ーーーーーーーーーーーえ?えええええ?!ちょ・・まっ、それって?!
「美鶴が教えてくんないとわかんない・・・どうすればいいか、わかんない・・・」
「わ、亘!待った!ちょっと待って!ど、どうしたんだ?」
「美鶴お願い・・・」
「わっ?」
亘が抱きつくように美鶴の胸に飛び込んできた。反動で二人してベッドに倒れこむ。
亘が美鶴に覆い被さるようにして顔だけ上げた。目尻に涙を一粒だけ浮かべながら美鶴の顔をまともに見れないのか、恥かしそうに少しだけ目線をずらし、吐息混じりのかすかな声で言う。
「教えて・・・?」
理性の切れる音があるとするなら、美鶴は正直亘と出会ってからそれを何度も聞いている。
亘の無自覚で無防備な振る舞いのおかげで、何度自制心を失ったか知れやしない。
それでもこれまで美鶴は渾身の思いで、あわやとなる寸前にその自制心を取り戻していたのだ。
でも今は。でもこれは。どう考えたって。
───初めての床入りでどうすればいいのかわかりません教えてください旦那様───の思いっきり新妻仕様亘を相手にどう自制心を取り戻せというのかーーーーーー?!
「あっ・・・!」
気がつけば美鶴は横抱きにするような形で亘を抱きしめていた。そしてシャツを押さえていた亘の手を解いて掴み、シーツに押し付けるとそのボタンに手をかけていた。亘が小さく悲鳴を上げる。
「み、美鶴・・・やだっ、手、痛い・・・!」
「あ・・・ご、めん!」
「・・・あ、暴れたりしないから、やさ、優しく・・・して!」
目をギュッと瞑って真っ赤になってそう言う亘に、美鶴はもう理性が切れるどころではなかった。
おそらくこれが宮原がかけたと言う催眠術の効果なのだろうが、そんな事を思い出してる余裕も無い。
ほとんど耳にガンガン響くくらい高鳴ってる自分の鼓動をし少しでも静める事に必死だ。
「カーテン、空いてる・・・美鶴。あか、明るいのやだ!見えるの・・・やだ!カーテン閉めて。電気消して。お願い、暗くして・・!」
けれど当の新妻といえば、どれだけ旦那様が大動揺してるかも知らずに可愛い顔で更に煽るような事ばかりいう。こんな風に誘われて平静を保てる若旦那さんがいましょうか。
美鶴はああもう!何でコイツはこんなに可愛いんだ!と、唇を噛みながら思わず意地悪く言ってしまった。
「ダメだ。カーテンは閉めるけど電気は消さない・・・!」
「え?ど、どして・・・?」
「消したら亘の顔が見えなくなるから嫌だ」
「で、でも・・・恥ずかしいからやだよ。お願いだから・・・!」
「・・・亘、教えてっていったろ?暗くしたら教えられない(何をだ。芦川美鶴)」
「う・・・」
もはや、ボタンがほとんどはずされて半裸状態の亘は、涙目で恨みがましそうに美鶴を睨んだがそれでもそれ以上の抵抗はしなかった。恐るべし、宮原の催眠効果!である。
美鶴は大きく息を吸い込むと、自分を落ち着かせようと深呼吸する。正直、余裕がないどころの話ではないのだがそれでは先に進まない。
「亘・・」
「美鶴・・・意地悪だ・・」
「嫌か・・?」
「嫌じゃ・・ないけど・・け、ど」
亘は無言で首を横に振ると、おもむろに起き上がる。そして意を決したように自分から美鶴の首に両手を回した。そして俯きながら震えながらまるで訴えるような切なさで告げた。
「怖く・・し、ないで・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・優しくして、とか。乱暴にしないで、とか新妻定番セリフは良く聞きます。が!!
『怖くしないで』って───────なんだ?!
亘の無自覚天然お誘い所作には果てがないのだろうか。美鶴はもはや絶対、自分にストップがかかるのは不可能な事を感じてしまった。
美鶴は亘を乱暴に押し倒すと、元々逃げる気も無い亘を絶対逃げられないように、体の下に押さえつけた。そして亘の耳たぶを舌でチロリと舐める。「・・・あっ?!」
「優しくする・・・怖くしない・・努力する。でも、ごめん・・・亘が可愛すぎるから正直、自信ない」
「みつ・・・」
そう言って美鶴は亘の手を取ると、静かに手首に唇を落とす。
チクン、と甘い痛みをそこに感じた亘は少しだけぴくんと肩をすくめた。そしてそこに淡い花びら色の痕を見つけて、はにかむように微笑んだ。
「サクラ、みたいだ・・・・」
「咲いたら・・・一緒に見に行こう」
「ん・・・」
亘の唇がそっと何かを形作る。美鶴はその口の動きを見て微笑むと、恥かしそうに俯いた亘を抱きしめた。
(ミツル、スキ・・・)
美鶴が亘の前髪をそっとかきあげて、ゆっくり顔を近づける。そしてその唇に吐息がかかるくらいまで近づいて、そしてお互いの唇が確かに重なり合って、その熱を感じて───・・・。
────────パチクリ!
離れた途端。
亘がいきなり目覚ましの大きな音を聞いて突然覚醒したかのごとく、パッチリと大きく目を見開いて驚愕の表情を浮かべた。そして口をパクパクさせながら驚きの声を上げた。
「え・・え?え?!」
いきなりの亘の雰囲気の豹変に美鶴が顔をしかめる。「亘・・・?」
「・・・・わ、わーーーっ?!わーーっ?!な、なにっ、なに?な、何で美鶴僕に覆い被さってんだよ?!わぁっ?!な、何で何でシャツが脱げかかってんの?!や、やだやだ、ど、どけて、美鶴どけてよ?!」
宮原催眠マジックここに突如効果終了。
どうやらかっきりはっきり我に返ってしまったらしい亘は、真っ赤になって美鶴の下で大暴れをはじめた。
美鶴は突然我に返ってしまった亘に、恐ろしいくらいガックリと肩を落とし宮原の奴!半端な術をかけやがってーーーーーーー!!と言う憤怒感に見舞われていたが、亘を押さえつける手に力を込めるとハッキリと言った。
「亘、何を言われてもどう言われても今日は止めるのはもう無理!絶対無理!恨むなら宮原を恨め。
それに大体において、何よりもかによりも一番の原因は亘が可愛すぎるのが悪い。一番悪い!俺は悪くない。だから止めない!」
「は?え?な、なに?どういう事?何の事?み、美鶴、美鶴・・・!あっ?・・・やっ・・!
やだーーーーーーー!」
その後宮原くんが趣味ではじめたらしいその催眠術は、簡単に解ける事など無いよう、ある一人の人物によって完璧なまでの腕に高めさせられたとか、なんだとか。そしてある言葉を囁かれると何故か美鶴に逆らえなくなってる亘がいて、その日は必ず美鶴の家にお泊りしてる亘がいたとかいないとか。
サクラの蕾がもうすぐ花開く───そんな時期の出来事でした。
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