いよいよ、オンリーは明日ですね!参加される皆さまお気をつけて。遠い北の果てからイベントの成功をお祈りしておりまする。(そして当日はどんなだったか詳しく!詳しく日記等に上げて下さいませ!!<切実)
そして恐らく、ワタクシのように諸事情で行きたくても行けない方も多かろうと思われますよ。
そんな訳でせめてSS更新して応援(・・に、なるのかよ?)
このお話は某企画さまに投稿させて頂いたものですが、そちらが終了して、しばらくたちましたのでもうこちらに上げてもいいかなぁ、と思い・・・
だから実は再録みたいな感じで新作ではないんですが(すみません!!)
実はいとと初の幻界ストーリ。とゆーか・・幻界の話って実はまともに書いてるのこれくらいです。
正直、ミツワタからは遠い話かもしれませんが個人的にはとても気に入ってるお話です。
海辺でHAPPY BIRTHDAY!
その日の事は幻界で過ごした長い日々の中でもワタルは特によく覚えている。
その日の皆の嬉しそうな笑顔を。楽しそうな喜びにあふれた笑顔を。
多分ワタルは現世に戻っても一生忘れる事はないと思った。
「女神様の祝福あれ!!誕生日おめでとう!!」
キ・キーマが大きな声で叫び、酒の入った杯を頭上高く掲げた。
あちこちで、おめでとう!と言う言葉が交わされカチンカチンとグラスどうしを重ねる音が響く。
運命の塔へむかう旅の途中。立ち寄った海辺の小さな村での出来事だった。
ワタルたちは村人達に快く迎え入れられ、夜には歓迎の宴会まで開いてもらっていた。
その宴席での事。どうやら誰かの誕生日でもあったらしくそれを聞きつけたキ・キーマが例のごとくあの陽気な大きな声で祝いの言葉を述べたのだ。村人達は大いに喜び、そして盛り上がった。
次々に実は俺も来月誕生日だ。とか、私は昨日だったの。とか、もう本当なんだか座を盛り上げる為の方便なのかとにかく楽しく盛り上がればいいのだという雰囲気になって、まるでその場にいる全員の誕生会のようになってしまった。
「大丈夫?ワタル」
周りのあまりの盛り上がりについていけず、端っこの席のほうでジュースの入ったコップを持って縮こまっていたワタルにミーナが声をかける。
「ミーナ」
ワタルがちょっとホッとしたように顔を上げた。
「うん。でもすごいね。誕生日ってヴィジョンではこんなに盛り上がってお祝いするものなんだ」
「もちろんよ!だってすっごくおめでたいことじゃない。誰かが生まれることって。ワタル達の世界は違うの?」
「もちろん、おめでたいことだけど・・・家族でお祝いしたりするけど・・・こんな風に会ったばかりの人たちの・・・もともと知り合いでもない人たちのためにお祝いなんて・・・ぼくしたことないから、なんかちょっと不思議なんだ」
この村にはたまたま立ち寄っただけだ。キ・キーマやミーナの知り合いがいたから寄ったと言うわけではない。
比較的穏やかで大国の影響をあまり受けていない村なのか、アンカ族もいればネ族らしき種族やその他の様々な種族が平和に共に暮らしていた。小さな小さな村だったけれどこういう村もあるんだとワタルはとても嬉しかった。
すぐ傍に海があり少し先から耳にここち良い波の音が途切れることなく聞こえてくる。
「もともと知り合いかどうかなんてあまり関係ないじゃない。だって同じ世界、同じ大地の上に住んでるのに」
ミーナの言葉にワタルは少しハッとする。
「お互いを大好きな恋人同士が結ばれて女神様の祝福を受けて・・・そして授かった命が、いまだってきっと次々このヴィジョンには生まれているのよ。その証である誰かの誕生日を祝うのに・・・
おめでとうを言うのに知り合いかどうかなんて関係ないわ」
ミーナはニッコリ微笑みながら言った。ワタルはなぜか不意に涙が溢れそうになるのをぐっとこらえた。
ミーナはゆっくり両手を伸ばすとワタルの首にそっとその手を回した。
そしてやさしく歌うようにワタルの耳元で囁いた。
「だから・・・ワタルだって・・・誕生日おめでとう。本当の日は知らないけど。でも、いいでしょう?
・・・だって言いたいの。生まれてきてくれてありがとう。だから私たちはこうして会えたんだもの。
だからだから、ワタルにもおめでとう。・・・ありがとうって・・・」
周りの大騒ぎの中。ミーナに抱きしめられながらワタルはまるでいま自分達だけ時間が止まったような気がした。
優しい優しいミーナのこの抱擁に、静かに目を瞑りながらワタルは何かを思い出していた。
誰かの声を思い出していた。
幼い幼い自分が聞いた声・・・この世に生まれたばかりの自分がおそらく聞いた声。
(ようこそ・・ようこそ・・私の赤ちゃん・・おめでとう、おめでとう
・・・・生まれてきてくれて・・・ありがとう)
何よりも嬉しげな声。そして誇らしげな声。・・・あれは、お母さんの・・・声・・
共に笑いあう声には男の人の声も混じっていた。
うん・・・ああ、そうか・・・そうだよね。みんなそうだよね。
生まれたばかりの幼い命をどうして祝わずにいられよう。どうして祝福せずにいられるだろう。
今、この瞬間。だから私たちは出会えることが可能になったのに。
いつ出会えるかわからないけれどそれでもいつか自分にとって大事な大事な友達や・・・仲間たちに出会えることになったのに。
愛する全ての人と出会うことが出来るのに。
ならば全ての命を祝おう。この世界に生れ落ちた全ての命を誕生を・・・ただ分け隔てなく祝えばいい・・・
「うん・・・ミーナ・・・うん・・・」
ミーナに抱きしめられながらワタルは溢れてくる涙をもうこらえなかった。
流れるまま溢れ出すままそのままにした。なぜならこれはこらえるべき涙ではないのだから。
止めるべき涙ではないのだから。
少なくとも自分も。自分は生まれたとき確かに祝福されて祝われた命のはずだから。
ヴィジョンにやって来てからもワタルはずっと思っていたことがあった。
それは自分は生まれて来るべき子だったのかと言うことだ。生まれて来て良かったのだろうかという事だ。
考えないようにしようとしても、あの去っていく時の父の目が頭の何処からか離れないように、その考えもまた頭から離れなかった。
お父さん・・・お父さんは・・・僕がいらなかったの?・・欲しくなかったの?
だから、出て行ったの?
・・・最初から嫌いだった、の?・・・と。
でも違う。きっと違う。
今がどうであれきっとお父さんは思ってくれていたはずだ。
生まれたばかりの自分におめでとう、と。
よく生まれて来たな・・・と。きっと。・・・ワタルはそう思った。
この先自分の家族の運命を本当に変えることが出来るのか、正直ワタルはわからない。
でもたとえ結果がどうなろうといま自分が信じた思い、ヴィジョンでミーナがワタルに言ってくれた言葉をワタルは決して忘れることはない。その思いがあればこれからなにがあってもきっと揺らぐことはないと思った。
照れくさそうにそっとミーナの手を解き、ワタルは涙をこすりながらちょっと海風に当たってくると言って海辺に向かった。
大きく深呼吸して海風を吸い込むと更に胸の中が暖かいもので満たされる気がした。
目の前に何処までも何処までも広がるこの蒼い蒼い海・・・そういえばこの海こそが、全ての命の始まりだと言われている。
ワタルはそっと目を閉じて波の音を聞いた。
遠く遠くはるかな昔も自分はこの音を聞いている。
生まれる前、この世界に降り立つ前にきっと母の体内の中で・・・それはどんな者であれ変わらない真実だ。
ひと筋の鋭い風が頬を撫でた。目を開けると海辺の向こうの岩陰にかすかに・・ほんの一瞬・・でも確かに黒い影が見えた。
あれは・・・
ワタルは走った。岩陰の向こうへ。黒い影が消える前にと息を切らせて。
「芦川!!」
確かに見えたはずの黒い影はもう何処にもいなかった。立ち尽くすワタルの頬を海風がただ優しく撫でた。
芦川・・・
君だってそうだよ。そうのはずだよ。そうでなければ・・・いけないんだ・・
祝福されて生まれた命。望まれて生まれた命。僕らは皆・・そうなんだ。
・・・だから。
「誕生日おめでとう。・・・芦川・・」
HAPPY BIRTHDAY HAPPY BIRTHDAY TO YOU
・・・生まれてきてくれてありがとう。出会ってくれて・・・ありがとう。
ワタルは小さな小さな声で海に向かってそっと・・・呟いた。
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